ChatGPTをうまく活用することで業務効率を上げたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
その中で不安になるのが「商用利用する際に問題にならないか?」という点です。商用利用をしようとする際に注意すべき事項や、ChatGPTが出力したコンテンツの著作権について詳しく解説します。
ChatGPTと著作権:基本的な理解
ChatGPTを利用する上で、気を付ける必要があるのが「著作権」です。
生成AIに関する著作権については、著作権法第30条の4にて規定されている内容をもとに議論が進められています。著作権の基本的な知識と、生成AIに関する著作権の考え方について解説します。
著作権の基本
日本における著作権は著作権法で定められています。この法律における著作物(著作権で守られる対象)は、「表現」に対して適用され、「アイデア」については適用されません。
絵画を例にとると、著作権法は「作品」を保護するものであり「画風」は保護されません。そのため、「○○(作家名)風の絵」などは著作権として問題ないとされています。
著作権の侵害となるかどうかの決め手となるのは、「類似性」と「依拠性」です。類似性は「他人の著作物にどの程度似ているか」という観点で、他人の著作物と明らかに似ていると判断されると、侵害となる可能性が高まります。
依拠性は「他人の著作物に依存しているかどうか」が焦点で、「類似性が認められた作品が、元となる著作物を参考にして作られた」場合、依拠性があると判断されます。
ChatGPT|AI開発・学習段階での利用
結論からいうと、AI開発・学習段階においては、著作権者の許諾なく著作物を学習に利用できます。
文化庁の発表した資料によると、
AI開発のための情報解析のように、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能です(権利制限規定)
引用:AIと著作権(文化庁)
とされています。そのため、AIに学習させる際に利用するテキストや画像について、著作物が含まれていても2024年4月現在の解釈では違法にはなりません。
ChatGPT|生成・利用段階での利用
AIの学習に著作物を利用することについては問題ありませんが、AIを利用して再生されたテキストや画像については、人が制作した場合と同じ扱いとされます。つまり、著作権を侵害しているかの判定に、AIが出力したかどうかは判断材料になりません。
ChatGPTは多くの著作物を利用して学習をしているため、プロンプトによっては学習の元になった著作物と非常に類似性の高い内容を出力する可能性があります。その場合、著作権の侵害と認定される可能性があるため注意しましょう。
ChatGPTによる著作物の商用利用
ChatGPTを利用して生成されたコンテンツは、どこまで商用利用が可能なのでしょうか。OpenAI社の利用規約とともに、商用利用する際の注意点を解説します。
商用利用の範囲と条件
OpenAI社の規約によると、ChatGPTが生成したコンテンツの所有権はユーザーにあるため、原則として商用利用に関して制限はありません。生成したコンテンツに関する規約を要約すると、以下のようになります。
- コンテンツの所有権:ChatGPTに関するアウトプットに関するすべての権利、および利益を利用者へ譲渡します。
- コンテンツの類似性:ChatGPTの出力した内容はオリジナルではなく、他の利用者に対しても同様の出力をする可能性があります。
- コンテンツの利用:AIの精度向上のため、コンテンツ(利用者が入力した内容とそのアウトプット)をAIの学習に利用します。
- AIの精度:ChatGPTのAIは研究段階にあり、継続して改善に取り組んでいます。出力した内容は真実を正確に反映していない可能性があります。
※本情報は2024年4月末時点での情報であり、今後変更される可能性があります。
ChatGPTの生成したアウトプットは原則として利用者に所有権があり、かつアプトプットにより発生する利益も利用者に譲渡されることが明記されていることから、商用利用も可能であることがわかります。
参考:OpenAI社
ChatGPT商用利用時に注意すべきこと
商用利用が可能な一方で、コンテンツの正確性や類似性についてOpenAI社は一切の責任を負いません。
商用で利用する際には、特に気を付ける必要があります。間違って著作権を侵害しないためにも以下のことに注意しましょう。
- コピペチェックを徹底する
- 機密情報・個人情報を入力しない
- ファクトチェックを徹底する
- 利用規約を定期的に確認する
コピペチェックを徹底する
ChatGPTは、これまでに学習した膨大なテキストデータから適切と思われる文章を出力します。既に存在する情報と酷似した文章が出力された場合、知らないうちに著作権を侵害してしまう可能性があります。
意図的でなくても、コピペと疑われる文章を公開してしまうと、社会的信頼性が低下する可能性があります。ChatGPTが出力した内容は必ずコピペチェックを実施し、類似性の有無を確認することを徹底しましょう。
機密情報・個人情報を入力しない
ChatGPTを利用する際には、企業の機密情報や個人情報を入力しないよう徹底してください。
ChatGPTは、精度向上のため利用者が入力したプロンプトを学習データに転用しています。機密情報や個人情報を入力した結果、その情報がChatGPTの言語モデルに覚えられた場合、想定しない場所で他のユーザーにその情報が提示されてしまう可能性があります。
ChatGPTにプロンプトを蓄積させ、自社に特化した結果を出力させることができますが、外部に漏れてはいけない情報は入力しないことが得策です。特に、個人情報は個人情報保護の観点からも入力しないように徹底しましょう。
もし機密情報を入力したい場合には、「Chat History & Trainging」をOFFにすることで、プロンプトがChatGPTの学習に利用されることを防止できます。ただし、この場合は履歴も蓄積できなくなりますので注意しましょう。
ChatGPTに入力したメッセージの履歴を残しつつ学習に利用させたくない場合には、ビジネスプランの契約を視野に入れましょう。
ファクトチェックを徹底する
ChatGPTは必ず真実を出力するとは限りません。一見本当のことのように嘘の情報を出力することがあります。この現象を「ハルシネーション」と呼びます。利用する場合、ハルシネーションが起きることを前提にする必要があります。
もし真実ではない情報が原因でトラブルが発生した場合でもOpenAI社は一切の補償をしません。自社を守るためにも、「ChatGPTが出力した内容が正しいかどうかのファクトチェックを実施する」ことを徹底してください。
ChatGPTが出力した情報が、信憑性の低い個人サイトでしか確認できないこともあります。政府や企業のホームページなど、信憑性の高い情報と合致しているかどうかもチェックするようにしましょう。
利用規約を定期的に確認する
ChatGPTを利用する際には、OpenAI社の利用規約を定期的に確認しましょう。規約が変わることで、従来では問題のなかった利用方法が違反行為となってしまう可能性があります。
2024年4月時点でも、生成AIに関する法律は各国・地域で議論が続いています。今後、その議論の結果によってはOpenAI社が規約を変更することが予想されます。
また、規約の変更による問題はChatGPTに限った話ではありません。外部サービスを利用する際には、利用しているすべてのサービスの規約を定期的に確認するように社内規定として盛り込むことをおすすめします。
ChatGPTのソースコードと著作権
さまざまなシーンでの活用が期待できますが、真価を発揮するといわれている使い方の1つが「プログラミング」です。
ChatGPTを使うことでソースコードが生成できるので、ITエンジニアもうまく活用して効率よくエンジニアリングを進めています。しかし、ソースコードにも「著作権」が存在するので、注意する必要があります。
ソースコード公開の背景と著作権
プログラムのソースコードの中には、GitHubなどで公開しているものも存在します。この公開されているソースコードを「オープンソース」と呼び、原則としてだれでも自由に利用できることになっています。
ただし、オープンソースソースとして公開されているソースコードにも著作権は存在しているため注意が必要です。ChatGPTはインターネットに公開されているソースコードを学習しているため、ChatGPTが著作権で守られているソースコードをそのまま提示する可能性があります。そうなると、知らないうちに著作権を侵害する可能性もあるため注意する必要があります。
ソフトウェアライセンスの種類と特徴
オープンソースにおけるライセンスはさまざまであり、ソースコードごとにライセンスを設定した上で公開しています。その中で注意すべきなのが「コピーレフト」の考え方です。コピーレフトとは、「オープンソースを利用・改変して利用した場合には、同じ(オープンな)ライセンスを適用する必要がある」という意味です。
つまり、コピーレフトが設定されたソースコードを利用したプログラムは、コピーレフトに従ってソースコードをすべて公開する必要があります。コピーレフトを理解せずにオープンソースを利用した結果、外部に公開したくないプログラムを公開する必要がでる可能性もあるため、オープンソースを利用する場合にはライセンスに注意する必要があります。
ソースコード利用時の注意点
ChatGPTは、オープンソースのコピーレフトの有無に関係なく学習に利用しているため、出力したソースコードが実は「コピーレフトの適用されているソースコードだった」という可能性もあります。
ChatGPTが出力したソースコードを利用する場合、著作権とソフトウェアライセンスの両方に注意が必要である、という点は覚えておくとよいでしょう。
ChatGPTによる画像生成と著作権
ChatGPTは元々テキストのみを取り扱う生成AIでしたが、2023年に「DEAL-E」を搭載したことで画像生成も可能になりました。テキストはもちろんのこと、画像についても著作権に気を付けて利用する必要があります。
画像生成技術の著作権問題
画像を作成する生成AIも、インターネット上に公開されている多くの写真や絵画を学習してAIモデルを構築しています。そのため、ChatGPTが出力した画像が他の作品と酷似していた、という可能性があります。
前述のとおり、著作権が侵害されているかどうかの判定に「生成AIを利用したかどうか」は関係ありません。ChatGPTで出力した画像は、プロンプトを入力して生成したその利用者に帰属するため、その画像が著作権を侵害していると判定された場合、その人が訴えられることになります。
画像生成でChatGPTを用いる場合の注意点
ChatGPTで利用している画像生成AIが、どのような画像を利用して学習しているのかの判別は難しいため、知らないうちに「他人の著作物に類似した画像を出力した」という可能性があります。特に画像を商用利用する場合には、「他の著作物に類似していないこと」をきちんと確認する必要があるでしょう。
また、著作権の侵害をしていなかったとしても、ChatGPTは類似した画像を複数の利用者に出力する可能性があります。無用なトラブルを避けるためにも「この画像はAIを使って生成したもの」であることを明記するとよいでしょう。
ChatGPT利用における著作権訴訟のリスク
ChatGPTを含む生成AIを利用することで訴訟のリスクがあることが分かりましたが、実際にどのような訴訟問題が起きうるのでしょうか。
著作権侵害訴訟の例
海外では、実際にいくつかの訴訟が起きています。中国においては「画像生成AIが出力した画像が著作権を侵害しているとして起訴され、その内容が認められた」というケースも確認されています。
日本では、訴訟問題にはなっていないものの「自分の絵が学習に利用され、自分の描いていない絵が自分の作品として出回っている」という問題が確認されています。
文化庁は、生成AIによる著作権侵害からクリエイターを守るため、「文化芸術活動に関する法律相談窓口」を設置し、クリエイターの相談を受け実例調査を開始しています。今後、日本でも著作権侵害の判例が増えるかもしれません。
訴訟リスクを避けるための対策
著作権侵害を主張された場合にその類似性が認められた場合、「知らなかった」では済まされません。訴訟リスクを避けるためには、生成AIを利用して生成されたコンテンツが著作権を侵害していないかを注意深くチェックするしかありません。生成AIが出力した内容は安全ではないという前提のもと利用するとよいでしょう。
ChatGPTの著作権対策
ChatGPTを商用で利用する場合には、出力したコンテンツが他人の権利を侵害していないかに注意する必要があります。ChatGPTを利用して知らないうちに著作権を侵害をしてしまわないための対策について解説します。
著作権侵害を防ぐためのガイドライン
企業でChatGPTをはじめとする生成AIの利用を許可する場合、利用に関するガイドラインを定めることをおすすめします。前述の「ChatGPT商用利用時に注意すべきこと」で紹介した内容を踏まえ、以下のような事項をガイドラインとして規定します。
- 利用する際に注意すべき点
- 著作権についての基礎知識
- 生成AIを利用可能な業務範囲
- 生成コンテンツのチェック
- 個人情報について
ここで紹介した内容は一例ですので、自社で利用する範囲を考えた上で適切なガイドラインを定めてください。また、ガイドラインを定めてもそれが運用されなければ意味がありません。ガイドラインに従って生成AIを利用するように周知・徹底しましょう。
ChatGPTの安全な使用法
ChatGPTを最も安全に使用する方法は、「生成した文章をそのまま利用したり、外部に公開しないこと」です。
利用できる範囲を明確にし、外部への公開を制限すれば著作権を侵害するリスクを減らすことができます。
また、ChatGPTが生成したコンテンツを外部に公開する場合には公開前のチェックをするようにルール付けすることで、より安全に利用できるでしょう。
まとめ
「著作権を侵害する可能性があるため生成AIの利用を全面的に禁止する」という企業もあるでしょう。一方で、DXの推進に伴い新しいデジタル技術を活用することは今後の企業成長においても非常に重要です。とはいえ、ルールを定めずに利用を許可すると、知らないうちに著作権の侵害をしてしまったり、それが原因で企業の信頼を失ったりすることもあるでしょう。
安全に社員の生産性を高めるためにも、しっかりと企業としての対策をした上で生成AIの利用を許可するようにしましょう。