近年、新たな仮想化技術としてコンテナ型仮想化が注目を集めています。単一サーバー内にアプリケーション単位での仮想領域を構築できるコンテナサービスですが、具体的なメリット・デメリットなど、その詳細を知らない人はまだ多いのではないでしょうか。そこでこの記事ではコンテナ技術について代表的なサービスも含めて紹介します。
DX時代のカギを握るコンテナ技術
「コンテナ」というと、一般的には運送業などで使われる運搬用の大きな容れ物を連想する人の方が多いでしょう。しかしITにおけるコンテナとは、1つのハードウェア内にある、仮想化された独立的なソフトウェア・アプリケーション環境を意味します。コンテナ型仮想化技術を活用することによって、ユーザーは1つのハードウェア内でホストOSを共有しつつ複数のアプリケーション環境を構築し、稼働させることが可能です。コンテナ型仮想化は、DX時代のデジタルビジネスを支える技術として、今後さらに活用されていくことが予想されます。
コンテナ技術が注目される理由
コンテナ技術は元々、ITエンジニアなど開発環境に携わる人達の間で重宝されていたものです。
例えばアプリケーション開発においては、ローカル環境で開発を始め、検証用環境、本番環境というように、システムの運用環境を移行させていくのが通例です。しかしこのシステム移行において、アプリの稼働に必要なランタイムバージョンの違いなど各種のシステム環境の変化が前後で生じることによって、アプリケーションの動作に不具合がしばしば起こります。
そこで活用されるのが、アプリケーション本体やそれを実行するためのシステム環境を独立した仮想領域内に隔離可能なコンテナ技術です。コンテナは簡単に作成・移行・破棄ができるという特性を持っているので、物理インフラも含めた環境変化に左右されずに運用しやすく、先述のような開発環境の変化にも順応できます。
このように、コンテナ技術は開発環境において特に有用なものとして一部で知られていましたが、2016年、Windows Server 2016に「Windowsコンテナ機能」が搭載されたことによってさらに認知度を上げました。それ以来、Dockerをはじめとしたコンテナサービスが注目を集め、いまではシステムのクラウド化などの場面でも有用な方法として評価をさらに高めつつあります。
コンテナサービスとハイパーバイザー型の違い
従来、仮想化技術といえば、「ハイパーバイザー型」ないしは「仮想マシン型」(VM型)と言われる方法を意味していました。同じ仮想化技術でも、ハイパーバイザー型とコンテナ型ではどのような点が違うのでしょうか。
まず、前項で説明したように、コンテナとはホストOSを共有した個別のアプリケーション環境を意味します。つまり、コンテナ型仮想技術においては、OSのカーネルは共有したまま、アプリケーションレイヤーで仮想化環境を構築しているのです。
これに対してハイパーバイザー型は、ハードウェアの物理サーバー上で直接的に仮想化のためのハイパーバイザーソフトウェアを稼働させ、マシンレベルでの仮想化環境を実現します。これによってハイパーバイザー型の仮想化環境は、共有のホストOSに縛られず、仮想マシンごとに異なる自由度の高い仮想化環境を構築できるのです。
このようにハイパーバイザー型とコンテナ型とでは、仮想化の対象となるレイヤーが根本的に違うため、構築できる仮想化環境の規模に大きな違いがあります。とはいえ、これは単純にコンテナ型がハイパーバイザー型に劣るというわけではありません。次の項で詳しく解説するように、コンテナ型仮想化は、その小さい仮想化領域ゆえの利点も数多く備えているからです。
コンテナサービスのメリット・デメリット
コンテナ型仮想技術を提供するコンテナサービスの利用を通して、ユーザー企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。続いては、ハイパーバイザー型との違いも踏まえながら、コンテナサービスのメリット・デメリットについて解説します。
コンテナサービスのメリット
コンテナサービスを利用するメリットとしては、開発・運用コストの削減や、IT資源の最適活用による作業効率のアップが挙げられます。
サーバーにあるアプリケーションをコンテナごとに格納し、運用することによって、アプリケーション利用によるサーバーの負荷は最小化され、システムの迅速な起動や、個別のアプリケーションの安定的な稼働が期待できます。また、コンテナのこの軽量さは開発現場などにおいてアプリケーション環境をチームメンバーに配布したい場合に、個々人のマシンへの負担を最小限に抑えられます。
仮想化の単位が最小でもOSレベルのハイパーバイザー型では、システム負荷が重すぎてこうした効果は望めません。このような取り回しの良さは、ハイパーバイザー型に対してコンテナ型が持つ明らかなアドバンテージだと言えるでしょう。システムのデプロイ回数が多く見込まれる場合や処理速度を高速化したい場合などに重宝するため、企業にとってコンテナサービスの利用は大きな力になります。
コンテナサービスのデメリット
コンテナサービスの主なデメリットとしては、「アプリケーションごとにシステムを細かく分割できるがゆえに、運用が複雑化しやすい」という点が挙げられます。また、ホストOSに強く依存するため、OS同士の相性の悪さや、ホストOSから完全に独立したシステム運用を行ないたい場合は、利用に向かないというデメリットも持っています。
代表的なコンテナサービス
上記のような特性を持ったコンテナ型仮想化ですが、企業がその機能を利用するにはどのようなサービスを利用すればいいのでしょうか。続いては、コンテナ型仮想化の実施を助ける代表的なコンテナサービスを紹介します。
Docker
コンテナサービスとしてもっとも名前を知られているのが、Docker社が提供する「Docker」(ドッカー)です。Dockerはコンテナサービス市場を先導する旗頭ともいうべき存在で、マルチOSに対応したオープンソースのコンテナサービスを広範に提供しています。環境構築の難易度も低く、OS内でいくつものコンテナを稼働させてもオーバーヘッドのリスクを最小限に保ちながら快適な稼働が実現します。
Kubernetes
Dockerにも匹敵するコンテナサービスが「Kubernetes」(クバネティス)です。Kubernetesは特に作成したコンテナの管理面に強みを持ったツールで、コンテナの最適配置やオーケストレーションを実現します。
Kubernetesは元々Googleが開始したプロジェクトでしたが、IBMやMicrosoft、Amazonといった世界的企業も加わってアウトソーシングサービスをリリースし、Dockerに並び立つほどの一大勢力を築きました。さらに「Dockerで作成したコンテナをKubernetesで効率的に運用する」という使い方もできます。
Rancher
Rancher(ランチャー)は、Rancher Labsが開発したコンテナ管理のプラットフォームで、オープンソース・ソフトウェアとして無償で利用できます。先にご説明したKubernetesは、Dockerで作成したコンテナの最適運用に役立ちますが、Kubernetes自体が複雑で敷居が高いため、高度な技術と専門知識が必要です。そこで、Kubernetes初心者でも使いこなせるようにするツールとしてRancherが出現しました。
つまり、Docker、Kubernetes、Rancherの3つのコンテナサービスは、どれか1つを利用するというより、「相補的な使い方をすることで、ユーザーのコンテナ運用の効果を最大化するもの」として捉えられるでしょう。
まとめ
アプリケーション単位で仮想化環境を構築できるコンテナサービスは企業のシステム運用を効率化し、迅速なデータ共有やシステム開発を助けます。同じ仮想化技術でも、OS単位で仮想化したい場合はハイパーバイザー、アプリ単位で仮想化したい場合はコンテナといった具合に使い分けるのがおすすめです。