クラウドネイティブに注目が集まっていますが、具体的な意味や運用方法を知らない方も多いでしょう。本記事ではそうした方々に向けて、クラウドネイティブの概要や基本を解説し、クラウドネイティブを構成するシステムやツールについて紹介していきます。
クラウドネイティブとは
クラウドコンピューティングが普及し始めたころには、オンプレミス型の自社システムをクラウド型へ切り換える傾向が、数多くの企業で見られました。しかしクラウド技術が社会的に一般化した今日では、「初めからクラウド型のシステムを導入したい」と考える企業も増えています。
このようなニーズに応えて開発される「初めからクラウドでの利用を想定したシステム・アーキテクチャ」を指して、クラウドネイティブと呼びます。このクラウドネイティブのシステムは、オンプレミス利用を想定しない分、クラウド利用のメリットを最大化するよう設計されています。
クラウドネイティブにおける7つの構成要素
クラウドネイティブにはおもに7つの構成要素があります。
- コンテナ
- コンテナ・オーケストレーター
- マイクロサービス
- サービスメッシュ
- 分散トレーシング
- モニタリング・ロギング
- 宣言的API
それでは各要素について解説していきます。
1.コンテナ
コンテナとは、アプリケーションの動作環境を仮想化させる技術です。「稼働しているオペレーションシステム(OS)を、一部切り離して動作させる方式」をコンテナ型仮想化といいます。コンテナ作成のメリットは、アプリケーションを作成してデータ処理を新しく実行する際に、OSを複数用意する必要がないことです。OSを一つへ統一して複数のアプリケーション稼働を実現できます。
2.コンテナ・オーケストレーター
コンテナ・オーケストレーターとはコンテナを効率よく運用するための技術のことです。コンテナは便利なため複数作成されますが、数が増えると、その管理が煩雑化するなどデメリットが生じます。コンテナ・オーケストレーターによってコンテナをスケジュールしたり、監視したりでき、コンテナ運用全体が効率化されます。
コンテナ・オーケストレーターを導入したパイオニアとしてGoogleの事例があります。Googleが運用している有名なコンテナ・オーケストレーターツールとして「Kubernetes」があります。
Kubernetesの代表的な機能を紹介すると、以下のものがあります。
- 複数コンテナを連携し組み合わせで利用する機能
- 負荷に応じてコンテナ数を増減するスケールアウト機能
- 無停止でアプリケーションを更新するロールアウト&ロールバック機能
- ストレージ装置の論理ボリュームをコンテナにマウントする永続ストレージ機能
- 障害等によって失ったコンテナを自己修復する機能
これらの機能によって、クラウドネイティブなソフトウェアを効率よく運用することができるようになるのです。
3.マイクロサービス
マイクロサービスは、ソフトウェアの開発手法の一つであり、アーキテクチャの一種です。マイクロサービスでは、サービス単位でAPIのような軽量通信を実施・連携することで、これまで懸念されてきた通信速度や処理速度の底上げに成功しています。
マイクロサービスには、以下のような特徴があります。
- 保守とテストが容易
- サービスが相互的かつ大まかに結合
- 独立しており、デプロイ可能
- ビジネス機能を中心に編成
- 小規模なアプリケーションチームが所有
このような特性により、開発・テスト・リリースを含む一連の流れにおいて開発サイクルを短くすることができ、より早くビジネスの要求に対応していけるようになります。
基本的にマイクロサービスは、機能単位で小さく分割しており、個別に稼働しています。そのため開発者にとっては、個別の単位への理解が進み、同時に全体像をイメージしやすくなるのです。また、単一のマイクロサービスに問題やトラブルがあったとしても、全体へ与える影響が限定的になります。
4.サービスメッシュ
サービスメッシュとは、マイクロサービスアーキテクチャにおけるネットワーク課題を解消するための機能です。サービスメッシュは、ネットワーク上におけるサービスを抽象化することで、「マイクロサービスの相互間におけるセキュリティ上の信頼性と高速な通信を提供すること」を実現します。
そのためサービスメッシュと呼ばれる機能には、「マイクロサービスのパフォーマンスを見える化する機能」「稼働しているアプリケーションや、特定のアプリケーションを判別する機能」、またロードバランシング・アクセス認証・データ暗号化などの機能まで、含まれています。
5.分散トレーシング
分散トレーシングとは、「分散リクエストトレーシング技術」とも呼ばれ、マイクロサービスで実行されるアプリケーションの動きを監視する機能があります。特に障害やトラブルなどが起きた場合に、データ処理パフォーマンスを低下させる要因を特定するために使われることがあります。
マイクロサービスの課題は、マイクロサービスのみではアプリケーションの動作を理解できないために、問題が発生した際に要因を特定して修正することが不可能な点です。このような課題に対処するための技術が分散トレーシングです。
6.モニタリング・ロギング
モニタリング・ロギングとは「モニタリング機能」と「ロギング機能」と統合した機能です。モニタリングはその名の通り監視する機能であり、アプリケーションやマイクロサービスのパフォーマンスを管理して評価します。
ロギングとはログを残すことです。発生したインシデントや出来事に対してログを記録して蓄積することで、トラブルが発生した際に原因の特定やケーススタディとして役立てることができます。
7.宣言的API
宣言的APIとは、サービス自体に命令する指令ではなく、サービスのあるべき姿、理想状態を指示するAPIです。「宣言型API」に対して「命令型API」があります。これは、「具体的に実行させたいコマンド」を「命令」することで順次実行する方法です。
例えば、命令型のシステムは、開発者はリアルタイムに状況に応じたコマンドを打ち指令を出します。しかし、宣言型システムにおいては、システムそのものがAPIの宣言や指令に沿って動作するため、ユーザーが指令を毎回出す必要はありません。
マイクロサービス同士は、APIを介してやり取りしており、「宣言型のAPI」を導入して活用することが特徴です。
クラウドネイティブのメリット
クラウトネイティブが注目される中で、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここからはクラウドネイティブのメリットを3つ紹介します。
- インフラ整備の必要がない
- 事業規模にあったリソース量の取得
- ビルド&スクラップについて
それぞれのメリットを解説していきます。
インフラ整備の必要がない
まず、クラウドネイティブにはインフラ整備の必要がないメリットがあります。自社にインフラを持たずに済むことで、「運用にかかる人的コスト低減」や「トラブル対応のリスクを外部への移転すること」などが可能になります。
例えば、サーバーの場合、自社に持つ必要はなくなるため運用コスト削減が可能になるでしょう。このようにネットワークやサーバーに関するインフラの整備が不要になるという、大きなメリットがあります。
事業規模にあったリソース量の取得
クラウドネイティブには事業規模にあったリソース量を取得できるメリットもあります。今までのサーバーは需要を予測する必要があり、予測したスペックのサーバーを用意するだけで十分のため、「状況に応じた柔軟な拡張を行う」という事態は稀でした。
クラウドであれば、リソースを必要な分だけオンデマンドに入手可能で、必要なときに必要な分を調達できます。大手から中小規模の企業まで、それぞれの事業規模にフィットするよう、資源の拡張・縮小も任意に行っていけるため、自社に最適なリソース確保につなげられます。
ビルド&スクラップについて
最後に、クラウドネイティブにはビルド&スクラップが容易であるメリットがあります。クラウド環境では、データ管理や仮想空間の設定、構築が容易にできるため、プロジェクトを作成したり、プロジェクトを破棄したりすることも手軽に実行に移せます。
クラウドネイティブによってデータ容量や動作環境を容易に拡張し削除することができ、自社でカスタマイズする必要がなくなります。
クラウドファーストとの違いとは
クラウドネイティブと似た言葉にクラウドファーストがあります。クラウドファーストを端的に表すと「システム構築を行う場合は、クラウド化することを念頭に置く」という考え方を言います。
クラウドネイティブはプラットフォームやデータ管理をクラウド上で行うだけでなく、動作するためのシステムもすべてクラウド上で完結させる考え方です。
クラウドファーストでは一部オンプレミス環境を導入して実施する場合もありますが、クラウドネイティブでは物理環境を一切持たないという、よりクラウドに特化した概念です。
クラウドネイティブにおけるシステム条件
クラウドネイティブにおけるシステム条件として以下が挙げられます。
- 設計の自動化
- パフォーマンスの管理
- ゼロトラストなセキュリティ対策
設計の自動化は「システム」にとってベストプラクティスであり、運用工数を最小限に抑えることができます。システム修復やインシデント検知などを自動化することで効率的なクラウドネイティブ運用を実現します。
パフォーマンス管理では、システム運用状況を常に監視して継続的に運用を続けられるようにします。クラウドネイティブのパフォーマンス水準を高めるためにも重要な要素と言えます。
ゼロトラストなセキュリティ対策とは、「境界セキュリティにおいて外側と内側を区別せずに、データを保護すること」を指しています。コンポーネント間の信頼を最小限にし、あらゆるアクセスを疑いつつ、アクセス認証を複数の境界間に設定することで、高いセキュリティ環境を実現するものです。
まとめ
クラウドネイティブの運用にはコンテナやマイクロサービスなど多くの技術が利用されています。
クラウドネイティブを実現するにはセキュリティや運用効率化の観点が欠かせません。Microsoftが提供する「Azure」では、セキュリティを強化しながらも、スムーズなクラウド移行を実現できます。クラウドネイティブの実現を検討している方は、この機会に「Azure」導入も検討してはいかがでしょうか。