従来オンプレミスで稼働していたシステムをクラウドプラットフォームへ移行する「クラウドシフト」は、業種や組織規模にかかわらず、あらゆる企業で起きています。米調査会社ガートナーが実施したグローバル調査では、「エンタープライズ企業の10%がこれまで自社保有していたデータセンターを廃止して、クラウドへシフトしている」と指摘しています。さらに、「企業の80%が2025年までにデータセンターを閉鎖する」との予測を立てています。
劇的なクラウドシフトが起き、かつ今後も加速していく中ではITベンダーやSIer(システムインテグレーター)はどのように対応していく必要があるのでしょうか?本気記事では、ガートナーが提唱する「クラウド管理」について解説します。ITベンダーやSIerにおける今後の事業戦略のヒントや、クラウドユーザー企業におけるサービス管理効率化のヒントとしていただければと思います。
クラウドシフトが加速している背景にあるのは?
「クラウド(クラウドコンピューティング)」の存在が、世界中で認識されるようになったのが2000年代初頭です。当時、現在の大手IaaS/PaaSベンダーが登場しサービスが提供され、システム運用やアプリケーション開発に必要なインフラ設備をインターネット経由で調達できるということに衝撃が走りました。それ以降、クラウド市場は堅調に成長し続け、今ではクラウドを基盤としたさまざまなサービスが提供されています。
この背景にあるのが「クラウドネイティブな(クラウド運用を全体に開発された)アプリケーションだけでなく、基幹系システムも含めてこれまでオンプレミスで稼働してきたシステムをクラウドへ移行できる目途が立ってきた」ことです。
日本国内でも従来のオンプレミス基幹系システムの問題点(主にレガシー化)が指摘されており、多くの企業は「これからも自分たちでデータセンターを持っておくべきなのか?」という懐疑的な意見を持ち、その領域への投資を減らそうとする動きが活発になっています。また、デジタルビジネス時代の勝者となるべく、日々変化するビジネス要件に合わせてシステムを柔軟にカスタマイズする柔軟性が今後必要なことを理解しています。これを実現するのが、拡張性と柔軟性に優れたクラウドであり、まさに時代の要請といって感じではないでしょうか。
ITベンダーやSIerがビジネス勝者となるためには?
クラウドシフトが加速したことで新しい市場も生まれています。しかしながら、大手ITベンダーによる寡占状態が続き、大きな投資ができるITベンダーだけが市場での成長を続けられるのが特徴です。とくに日本企業がIaaSやPaaSなどのクラウド事業へ参入するのは大変難しい現状にあります。
そこで、クラウドシフトの波に乗りつつITベンダーとSIerの活路となるのが「インプリメンテーションサービス」と「マネージドサービス」です。
インプリメンテーションサービス
このサービスは「マイグレーションサービス」と「デベロップメントサービス」で構成され、クラウドへの移行支援、またはクラウド上での新規システム開発やシステム統合を提供します。
マネージドサービス
このサービスはクラウド上のシステム運用を担い、大きなマーケットになると見込まれています。
クラウドシフトは世界的な潮流であり、日本では2025年までにレガシーシステムが引き起こす問題が最大化するなど「2025年の崖」に注目が集まっており、クラウドシフトを検討する企業が急増しています。
そしてもう1つ着目すべきサービスが「SaaS(Software as a Service)への移行」です。IaaSやPaaS(Platform as a Service)への移行に限らず、SaaSへの移行においても提供価値が高いと考えられています。
ガートナーが考えるクラウド管理
クラウドシフトが加速するにつれて、それに帰属した問題も起きます。それらの問題に対処しながらクラウド上でのシステム運用効果を最大化するために、ガートナーは以下のようなクラウド管理機能が必要だと提唱しています。
クラウド管理12の機能
基本的な管理
- ガバナンスとポリシー管理
- サービスリクエスト管理
- プロビジョニング、自動化、オーケストレーション
- モニタリング、メータリング
- IT投資評価&PDCAの仕組み
- マルチクラウドブローカー
クラウドに特化した管理
- クラウド移行と災害対策
- コストの可視化と最適化
- キャパシティとリソース最適化
- セキュリティおよびID管理
- サービスレベル管理
- 継続的な構成の自動化
各管理領域で勝負できるか?
Microsoft AzureなどのIaaS/PaaSサービスには、ガートナーが提唱するクラウド管理機能を各種備えています。しかしながら、その機能は多岐にわたるためそれらを理解し、使いこなすことはやはり専門家が必要です。そこにビジネスチャンスを見出したITベンダーやSIerも多く、煩雑な管理を楽にするためのサードパーティツールやマネージドサービスが登場しています。
日本企業のクラウドシフトは今後急速に進むと考えられているので、日本企業の特色を理解しているITベンダーとSIerがサードパーティツールやマネージドサービスを提供すれば、国内における需要を大きく獲得できる可能性が高いでしょう。
クラウドユーザーとして意識すべきことは?
ガートナーが提唱しているクラウド管理12の機能は、ITベンダーやSIerが今後のビジネス戦略を検討する上で参考にするだけでなく、クラウドユーザーが最適なクラウド運用のために必要な機能を明示してくれています。中でもクラウドに特化した以下の管理機能が重要です。
- クラウド移行と災害対策
- コストの可視化と最適化
- キャパシティとリソース最適化
- セキュリティおよびID管理
- サービスレベル管理
- 継続的な構成の自動化
今後、クラウドシフトを検討している企業では、クラウド管理の概要を理解した上で正しい運用管理を目指すことが需要になりそうです。