ERPシステムのクラウド化は、多くの企業にとって重要な経営課題です。クラウド型へ移行することで、柔軟なシステム環境の構築・運用が可能となり、業務効率性の向上だけでなく、システム投資から高いROIが見込めます。そこで本記事では、SAP社が提唱するクラウド型ERPの概要や、導入メリットについて詳しく解説します。
SAP社が提唱するクラウド型ERPとは
「ERP」とは「Enterprise Resources Planning」の頭文字をとった略称で、企業の根幹を支える経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を効率的に運用するマネージメント手法です。近年では、企業の基幹情報を統合的に管理するITシステムを指して、ERPと呼称する傾向にあります。そして、オンプレミス型のように物理サーバーやネットワーク機器を必要としない、クラウドコンピューティングサービスの統合基幹業務システムが「クラウド型ERP」です。
そんなERPシステムの中で高い市場シェアを誇るのが、SAP社のソリューションです。コンピュータがビジネス市場で活用され始めたのは1970年代と言われており、1973年に世界初のERPシステム「R/1」がSAP社によって販売されました。SAP社はドイツに本社を置く企業で、エンタープライズ向けのソフトウェア市場において、圧倒的な市場シェアを保持しています。とくに、企業の統合基幹業務システムであるERP分野においては、世界一といっても過言ではありません。
現在、SAP社が主力としているERPシステムは「SAP S/4HANA」であり、オンプレミス型とクラウド型、そしてハイブリッド型の3つの導入形態があります。今なおオンプレミス型が高い人気を誇るものの、近年ではシステム環境のクラウド移行がトレンドなこともあり、クラウド型の導入が増加傾向にあります。時代はクラウドファーストへと変遷しており、ERPシステムの主流もオンプレミス型からクラウド型へと移行しつつあるのです。
クラウド型ERPの種類
クラウド型のERPシステムには、大きく分けて2つの形態が存在します。それが「パブリッククラウド」と「プライベートクラウド」です。
パブリッククラウドとは、ベンダーが提供するクラウド環境を共有して利用するクラウドコンピューティングサービスを指します。代表的なところでは、「Amazon Web Services」や「Google Cloud Platform」などのサービスが挙げられます。一般的にクラウドコンピューティングサービスと呼ばれるものは、このパブリッククラウドのことです。物理サーバーやハードウェアなどを設置することなく利用できる点が、大きな特徴と言えるでしょう。
一方、プライベートクラウドとは、自社に設置されたITインフラに構築されたクラウド環境です。パブリッククラウドは環境整備が容易であり、導入費用も管理コストも抑えられるメリットがある反面、セキュリティ管理にやや不安が残ります。その点、プライベートクラウドでは、クローズドなシステム環境で独自のセキュリティポリシーが適用可能なため、高度なセキュリティ環境を構築できるのが大きなメリットです。
パブリッククラウドとプライベートクラウドは、それぞれに一長一短があり、一概にどちらが優れていると比較するものではありません。自社の企業規模や事業形態に合った形態を選ぶことが重要です。
また、クラウド型のERPシステムにはハイブリッド型という選択肢もあります。システム環境のクラウド化が普及し始めたころ、クラウド型かオンプレミス型の二者択一という極端な発想が台頭した時期がありました。
しかし近年では、オンプレミス型とクラウド型を組み合わせたハイブリッド型を導入する企業も増加しつつあります。「機密情報はオンプレミス環境で管理し、それ以外の情報管理はクラウドサービスを利用する」といった運用方法を取れるのがハイブリッド型の大きな特徴です。
SAPのクラウド型ERPが選ばれる理由
ERPシステムをクラウド化するもっとも大きなメリットは、サーバー機器やネットワーク環境が不要なため、システムの導入費用や管理コストを大幅に削減できる点です。これは多くのクラウドサービスに共通するメリットと言えるでしょう。しかし、SAP社のクラウド型ERPが選ばれる理由は、コスト削減効果だけではありません。ここでは、多くの企業にSAP社のクラウド型ERPが選ばれている理由について解説します。
企業規模に関係なく導入可能
SAP社が提供するクラウド型ERPシステムの大きな特徴は、汎用性と拡張性に優れるという点です。必要なリソースを短期間で調達でき、企業規模や事業形態を問わない柔軟なシステム環境の構築が可能です。従業員2人の会社から従業員20万人の会社まで、幅広い企業ニーズに対してフレキシブルに応えられます。
業界トップクラスのテクノロジー
SAP社は、1973年に世界初のERPシステム「R/1」をリリースして以降、およそ半世紀に渡ってERPシステムのトップシェアを維持し続けてきた企業です。長年培ってきた高い技術と深い知識を基に、さまざまな業種や事業に対して、最適なプランニングと支援サービスを提供しています。SAP社が誇る50年の経験と実績による信頼性の高さは、業界トップクラスと言えるでしょう。
柔軟なカスタマイズが可能
SAP社のERPシステムが支持される理由の1つに、柔軟な仕様が挙げられます。例えば、パブリッククラウドやプライベートクラウドの使い分けや、ビジネスプロセスのカスタマイズ、ニーズに応じた料金体系など、企業の需要に沿った柔軟なカスタマイズが可能です。個々の企業ニーズに応じたシステム環境を構築できる点が、SAP社が多くの企業から高評価を得ている所以と言えます。
強固なクラウドセキュリティ
SAP社のクラウド型ERPは、強固なセキュリティを誇るソリューションです。SAP社にはあらゆる情報漏えいインシデントから企業を守る、専任のエキスパートチームが在籍しています。
ERPシステムは、企業の根幹を支える基幹情報を管理するソリューションです。そのためセキュリティ管理の最適化は、もっとも重要な経営課題といっても過言ではありません。SAP社のERPシステムは、不正アクセスやマルウェアといった脅威から、企業の基幹情報を保護します。
クラウド型ERPの種類
SAP社のERPシステムは「R/1」をリリースして以降、「R/2」→「R/3」→「SAP ERP」→「SAP S/4HANA」と変遷を遂げており、進化し続けてきました。そして、MicrosoftやOracle社といった米国のITベンダーを退け、ERP市場における世界トップシェアを維持しています。ここでは、そんなSAP社が提供しているクラウド型ERPシステムを紹介します。
SAP S/4HANA Cloud
現在、SAP社が提供するERPシステムの主力製品が、SAP S/4HANAシリーズです。SAP S/4HANAは、「SAP HANA」を基盤とする第4世代のERPシステムとして、2015年にリリースされました。そして、SAP HANAを標準プラットフォームとして、SaaSで提供されているクラウド型ERPが「SAP S/4HANA Cloud」です。これは、財務会計・人事・生産・在庫・物流・販売といった企業の基幹情報を統合的に管理し、経営リソースの配分を最適化します。
SaaSとして提供されるクラウドコンピューティングサービスのため、四半期ごとに定期的なアップデートが行われ、常に最新版の環境を利用できる点が大きな特徴です。また、「必要な機能・不要な機能」を設定可能なため、自社の企業規模や事業形態に合ったシステム環境をスムーズに構築できます。SAP社の主力製品なだけあり、非常に多機能で汎用性に優れるERPシステムと言えるでしょう。
SAP Business One
「SAP Business One」は、中小企業向けに特化したERPシステムです。調達から販売に至るサプライチェーン全般の一元管理はもちろん、顧客管理に特化したシステム「CRM」や、営業支援システムの「SFA」といった機能も備えています。
オンプレミス型とクラウド型の両方に対応しているため、自社の環境に適したERPシステムの構築が可能です。さらに、多言語や各国の通貨・税制にも対応できることから、事業のグローバル展開を目指している中小企業の海外拠点向けシステムとして最適でしょう。
SAP Business ByDesign
「SAP Business ByDesign」は、従業員数100人~500人程度の中堅企業を対象としたクラウド型ERPシステムです。企業の基幹情報からサプライチェーンまでを統合的に管理し、ワークフローのプロセスを統合することで、組織全体における業務効率化と生産性向上に寄与します。
SAP Business ByDesignの大きなメリットは、実装が簡単なパッケージとして提供されるため、短期間かつ低コストでの導入が可能な点です。これまで、企業の基幹情報を一元管理するERPシステムの導入には、多くの導入費用と時間を要し、さらにはデータやシステムの移行にも高い技術が求められていました。その点、SAP Business ByDesignでは、SAP社が培ってきたベストプラクティスがテンプレートとして用意されているため、低コストかつ短期間でERPシステムの環境を構築できます。
まとめ
クラウド型ERPシステムは企業の基幹情報を一元管理し、経営状況の可視化と意思決定の迅速化に寄与するソリューションです。現代の企業経営においては必須のシステムと言えるでしょう。組織全体における情報共有と業務連携を強化するためにも、「SAP on Azure」の導入をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。