近年、オンプレミスからクラウドへ移行する企業が多く、AWSやAzure、GCPといったパブリッククラウドが普及しています。本記事では、クラウドへの移行を検討する企業に向けて、失敗しないためのノウハウと企業の成功事例を紹介します。
注目されているクラウド移行とは
クラウドとは、インターネットを介して必要なサービスを利用することです。現在オンプレミスで運用しているシステムをクラウド上へ移動させる作業をクラウド移行といいます。オンプレミスと比べて自由度は下がるものの、クラウドサービスの提供プロバイダが運用・保守を行ってくれるため、管理工数の削減に有用です。
クラウド移行のメリット
注目の高まるクラウドサービスを利用すると、実際にどのようなメリットが期待できるのでしょうか。経費削減や災害対策など、ここではクラウドに移行した際に得られる4つの大きなメリットについて解説します。
ランニングコスト削減
オンプレミスの場合、サーバーを管理するための継続的な維持費が必要です。クラウドに移行した場合、サーバーを利用した分だけ支払いの発生する従量課金となるため、維持費を削減できます。
また、オンプレミス環境では、サーバーのキャパシティーに余裕を持たせる必要がありました。しかし、普段利用することのない無駄なリソースは、コストの負担になってしまいます。クラウドではサーバーのスケールアップを行う際も、必要な量だけ調達してサービスを拡大できるのです。このようなさまざまな観点から、クラウドへの移行はランニングコストの削減に有用であると判断できます。
専門人材の不要
オンプレミスのサーバーを管理するには、深い専門知識を有した人材の確保が不可欠です。一方クラウドでは、サーバーの保守作業をクラウドベンダーが担うため、これまでサーバーの運用・保守に工数を費やしていた管理者は、本来の業務に集中できます。
自社サービスのアプリケーション開発などといったコア業務に工数を投入できれば、社内の生産性向上につながります。なお、パートナー企業にクラウド移行を依頼する際には、クラウドに関する技術資格のある人材が在籍しているかどうかも重要なポイントです。
災害時のBCPになる
近年日本では、震災をはじめさまざまな自然災害が発生しています。復旧率に大きな影響をもたらすBCP (Business Continuity Plan:事業継続計画)対策として、クラウドへの移行を考える企業が増えているといった背景もあるのです。
クラウドは、データセンターと呼ばれるサーバーが集中した施設を複数保有しています。たとえばAWSの場合、東京と大阪に拠点があり、さらにそれぞれが複数のデータセンターを持っています。これにより、1つのデータセンターが事故で停止しても、利用者は他のデータセンターとつないでサービスを継続利用できるといった仕組みがつくられているのです。
オンプレミスで同様の準備を行うのは高額な費用がかかりますが、クラウドを利用すればこの問題は簡単に解決できます。極端な例として、日本中で大災害が起こったとしても、海外のデータセンターにバックアップがあれば、スムーズに復旧できるのがクラウドの特徴でありメリットだといえるでしょう。
導入ハードルが低い
自社でサーバーを構築する必要のないクラウドサービスの中には、アカウントを登録すればすぐに利用できるものもあります。必要に応じた容量の増減も容易なため、コスト面での効率化にも期待できます。自社でサーバーを購入してシステムを構築するには、高額な費用がかかるだけでなく、設置して利用できるまでに相応の期間を要するのが通常でした。しかし、クラウドであれば、導入から運用までがスピーディーに実行できるため、ビジネスを失速させません。
ただしクラウドは、オンプレミスのように自由なカスタマイズができないため、導入する前には自社のニーズに合うかどうか慎重に検証してください。
クラウド移行の事例
前述したように、クラウドに移行するとさまざまなメリットが期待できます。ここでは、クラウドへの移行を果たしたした企業が、どのようなメリットを実際に得られたのか、具体的な導入事例を紹介します。
株式会社ツムラの事例
海外事業の拡大に向け、柔軟なITインフラを必要としていた「株式会社ツムラ」では、インフラ保守のためのコスト増加などを課題としてクラウドへの移行を実行しました。AWSの「Cloud Economics」を導入したことにより、約40%にもおよぶコスト削減を実現させています。社内での検討が促進した理由として、クラウド移行前の綿密なシミュレーション結果が導入効果を示したと挙げています。
森永乳業株式会社の事例
事業を取り巻く環境の変化により、資産効率の改善と経営基盤の強化を急務としていた「森永乳業株式会社」は、IT部門がさらにユーザーに貢献できるような改革を目指し、クラウドの移行に踏み切りました。複雑なシステムや運用の属人化から脱却するために、2022年までのAWS全面移行を宣言し、現在も改革を続けています。インフラコストの削減と生産性の向上による約60%のコスト削減を見込んでおり、ネットワークの運用面においても、サイバーエンジニアの大幅な業務効率化が見込まれています。
クラウド移行で失敗しないコツ
クラウド移行するだけですべてのメリットが手に入るわけではありません。クラウド移行を成功させるためには、押さえておくべきポイントがいくつかあります。パブリッククラウドを導入する前に、以下で解説する事前準備がしっかりとできているかチェックしてみましょう。
クラウド移行する目的を明確にする
AmazonからはAWS、MicrosoftはAzure、GoogleではGCPといったように、さまざまな種類のパブリッククラウドが提供されています。クラウドの移行を検討する際、話題のツールを使ってみたいという理由では失敗を招く可能性があります。
クラウド移行で肝心なのは目的です。自社が何を目的にクラウド移行するのかが明確になっていなければ、メリットが得られる可能性は薄くなってしまうかもしれません。IT部門の運用効率向上など、一部のチームでクラウドを導入する場合も、全社的に目的を共有しておくことも大切です。
すべてをクラウドに移行せず、一部のサービスだけをクラウドに移行する「ハイブリッドクラウド」の採用も視野に入れてみましょう。コストダウンを目的とするのであれば、オンプレミスでコストのかかるサービスだけを移行するといった利用方法も有効です。
クラウド移行の目的を明確化し、綿密な戦略を練ったうえで導入すれば、移行後の運用もスムーズに進められます。
コストシミュレーションを試算する
事前に想定コストを把握しておくことも大切です。自社の予算に適したサービスかどうかを確認するために、クラウドベンダーごとで用意された試算ツールを活用して確認しましょう。
GCPの「Google Cloud Pricing Calculator」は、必要項目を埋めるだけで大まかなコストが調べられます。サーバーの台数や用途、スペック、稼働時間などを入力すれば試算結果がすぐに表示されます。正確な試算を実行するには、要件定義とシステムの構成図(アーキテクチャ)が必要です。アーキテクチャの作成に不慣れであれば、ベンダーが用意しているサンプルから似たものを選び、カスタマイズして使う方法もあります。
クラウドサービスは従量課金制となる場合が多いため、サービスの稼働状況によっては大きなコストの変動も考えられます。高い負荷がかかった際に請求額が高騰する可能性もあるため、最大でどれくらいの課金が発生するのかについても調べておくと安心です。
複数のクラウド環境を統一する
世界中にはさまざまなクラウドベンダーがあり、それぞれ異なる特徴を持っています。前述したように、オンプレミスの環境とクラウドを連携するハイブリッドクラウドを採用している場合には、特に注意が必要です。いくつかのサービスを併用すれば、それぞれのメリットを活かしながらデメリットをカバーし合える一方で、データの一元管理が困難になるケースも考えられるのです。
複数のクラウド環境が乱立したことにより、管理が一元かできないといった事態は避けなければなりません。データ管理に関する生産性の低下を防ぐために、将来性も考えたうえでクラウドの構成を考えるようにしてください。自社システムとの相性はもちろん、利用するさまざまなツールとの連携もきちんと考慮したうえで、慎重に比較検討しましょう。
まとめ
このように、クラウドの移行で失敗しないためには、注意すべきポイントについて正しく理解する必要があります。目的に合ったツールを選定するには、各ベンダーから提供するトライアル版を活用するなどして、自社の目的やニーズに合うサービスを選択してください。本記事を参考にして、クラウド移行による最大限のメリットを獲得しましょう。