近年、社内システムをオンプレミス環境からクラウド環境に移行する企業が増えています。しかし、企業にとって重要なシステムやデータをクラウド環境に移す場合、最初にそのメリット・デメリットをしっかり認識していなければいけません。そこで本記事では、クラウド環境構築の必要性やメリット・デメリットについて解説します。
クラウド環境とは
「クラウド環境」とは、インターネットを介して外部サービスを利用し、社内の業務システムやデータベースなどを運用するシステム環境のことを意味します。
従来、企業がITシステムを利用する際は、社内に専用サーバーなどの物理インフラを構築し、社内だけでシステム利用する「オンプレミス環境」が主流でした。
オンプレミスなシステムは、インターネットから切り離された独立環境として運用できるため、外部からの不正アクセスなどサイバー攻撃に対して高いセキュリティ効果が見込めます。しかし同時に、専用のインフラ設備の構築や保守運用が不可欠ゆえ、高いコストがかかるため、システムやセキュリティの更新も容易ではありません。そのためオンプレミス環境の構築は、とりわけ中小企業などの事業者にとってハードルが高いものでした。
他方、クラウド環境の場合、サーバーなどの物理インフラや基本的なセキュリティ環境は、外部のサービス提供者が用意したものを利用できるため、自社で独自に構築する必要がありません。それゆえ、クラウド環境におけるシステム運用は、システムやセキュリティの環境構築・保守運用に必要な、さまざまなコストの削減を可能にします。
オンプレミス環境からクラウド環境への移行は容易ではありません。しかしゼロからクラウド環境に最適化した業務システムを構築・導入したり、オンプレミス環境で従来から使用していた業務システムをそのままクラウド環境に移管したりすることも可能です。
クラウド環境構築の必要性
現在、日本では多くの企業が、積極的にシステム環境をクラウドに移行しているのです。その理由としては、「システム環境構築の容易さ」が挙げられます。先述したように、オンプレミスの場合は多大な経済的・時間的コストがかかる環境構築も、クラウドならサービス提供者が提案しているプランを選択するだけで済み、すぐにシステムの利用を開始できます。
また、クラウド環境独自の強みとして、インターネットを介してシステムを利用するという仕組み上、場所にとらわれない働き方が可能になることも挙げられるでしょう。例えば今日では、新型コロナウイルスの感染予防対策として、「3密(密閉・密集・密接)」を避ける取り組みが企業にも求められています。
この点、クラウド環境でのシステム運用は、従業員が自宅などの社外から就業するテレワークの導入を容易にするため、感染対策としても有効です。テレワークは、台風や地震などの自然災害で交通機関が麻痺した際も、効果を発揮するでしょう。このようにクラウド環境は現在、「企業の事業を安定的に継続するためのBCP対策」としても、その必要性を増しているのです。
クラウド環境構築の方法
需要を増しているクラウドシステムですが、いかにしてクラウド環境の構築が可能になるのでしょうか。まず前提として注意したいのは、採用するクラウドサービスごとに構築手順が異なるという点です。それゆえ、クラウド環境を導入する際は、各クラウドサービスの規約やマニュアル等をよく確認する必要があります。以下では、代表的なクラウドサービスである「Microsoft Azure」と「AWS」の構築手順を例に見ていきましょう。Microsoft Azureの環境構築方法
Microsoft Azureは、Microsoftの提供するクラウドサービスです。Azureではシステム開発からデータ管理まで、さまざまなことをクラウド環境上でセキュアに行えます。Azureの環境構築方法は契約するプランによりますが、ここでは組織規模によらず利用可能かつもっとも導入が簡単な、「従量課金プラン(MOSP)」のスタート方法について紹介します。
Azureを利用する場合、どのプランにおいても、まずMicrosoftアカウントの作成が必要です。アカウントを登録したらVLSC(ボリュームライセンスサービスセンター)からメールが届くので、その指示にしたがってVLSC登録をしてください。
VLSC登録を終えたら、Azureポータルにログインし、「従量課金サブスクリプション」を作成します。ここでは、Azureサインアップポータルにおける[サブスクリプションを追加]の項目を選択し、必要事項を入力していきます。このとき、必要に応じてサポートプランを追加することが可能です。最後にサブスクリプション契約の内容を確認・同意すれば、サブスクリプションの利用が開始できます。
サブスクリプション作成が終わったら、リソースや仮想ネットワーク、仮想マシンなどの作成・設定を行い、本格的なシステム構築を進めましょう。なおAzure導入に際しては、Microsoftが提供する「Azure利用ガイド」や「Microsoft Azure IaaS 構築・運用・管理ガイド」などの資料を参照することをおすすめします。
AWSの環境構築方法
AWSとは「Amazon Web Service」の略称で、通販会社として有名なAmazonの提供するクラウドサービスです。AWSの特徴としては、運用コストの安さ・拡張性の高さなどが挙げられます。
AWSを導入するのにも、まずはアカウントの作成が必要です。Eメールアドレスなどの連絡先や請求情報などを、指示に従い入力していきます。SMSや音声通話による本人確認を終えると、3つのサポートプランの選択画面に移行。そこで自社のニーズに合わせたプランを選択すると、アカウント登録が完了します。
アカウント登録が完了したら、AWSの基本的な機能や使い方を簡単に学べる、「10分間チュートリアル」を視聴してみましょう。ここでは仮想マシンやWebアプリケーションの起動方法などを学習できます。
チュートリアルを視聴し終えたら、その情報に基づいてシステムを構築していきましょう。AWSではWebサイトやアプリケーションの構築、バックアップなどさまざまなユースケースで活用できます。
クラウド環境構築のメリット・デメリット
クラウド環境には、以下で挙げるようにメリット・デメリットの両面が存在します。クラウド環境の構築を検討する際は、この両面を把握したうえで、導入の可否を判断することが必要です。クラウド環境構築のメリット
クラウド環境の主なメリットとしては、「コスト削減」「システムの柔軟性」「情報共有のしやすさ」などが挙げられます。すでに触れたように、クラウド環境の構築に際して、企業は自社で物理インフラなどを利用する必要がないため、さまざまなコストを節減しつつシステム利用を開始できます。
またクラウド環境では、インターネット上でシステム運用やデータ保存ができるため、場所にとらわれない働き方や情報共有が可能になります。さらに、クラウドサービスの提供者を介して最新技術の恩恵を受けられるほか、近年注目度を増しているIoT技術とも相性がよいなど、システムの柔軟性に優れているのも魅力です。
加えてクラウド環境は、セキュリティ面でのコストパフォーマンスにおいても優れています。インターネット上で社内システムを運用するのは、データ保全などの観点で不安を感じる方も多いかもしれません。しかし、最近の主要なクラウドサービスは、高水準のセキュリティレベルを保有しています。それゆえ、一定水準までのセキュリティ環境であれば、自社で独自構築するよりもコストを節減できる場合も多いのです。
クラウド環境構築のデメリット
クラウド環境の主なデメリットとしては、「ランニングコストの発生」「インターネット環境やベンダーへの依存」「サービス停止のリスク」などが挙げられます。
クラウドサービスは基本的に月額制で利用料金を設定している場合が多く、利用のためにはランニングコストが発生します、また、クラウド環境においては、自社のシステムやデータをベンダー企業のデータサーバーに置くことになるため、利用のためにインターネットを介したシステム環境が必須です。ベンダーへの依存度の高さ、つまり「ベンダーがサービスを停止したり、サイバー攻撃を受けたりした場合は、自社にも被害が生じかねない」という状況に陥る恐れも、懸念材料として挙げられるでしょう。
まとめ
クラウド環境はオンプレミス環境と比べてコストが少なく済み、新型コロナウイルス予防などBCP対策としても優れています。ただし、クラウド環境を構築・運用するためには、やはり相応の技術力が必要です。それゆえ、クラウド環境の構築を検討中の方は、サポートサービスの利用をおすすめします。