この記事では、ERPソリューションとして新たに登場した「SAP S/4HANA(エスエイピー・エスフォー・ハナ)」の機能を紹介し、企業のIT担当者が危惧するSAP2025年問題、SAPクラウド化の後に発生する課題について解説します。その課題の解決策として、脚光を浴びているSAPプラットフォームマネージドサービスについても紹介します。
SAP S/4HANAとは?
SAP社はドイツに本社があるヨーロッパの最大手のソフトウェア会社。世界のERPソリューションのリーディングカンパニーとして知られ、長年ERP市場を牽引してきました。Forbes 2000企業の9割以上が同社の顧客とされる世界的な大企業です。
そのSAP社が提供する「SAP S/4 HANA」は次世代ERP製品で、旧世代のSAP ERPに代わり、2015年2月に販売が開始されました。SAP社の2025年(サポート終了)問題に向けたソリューションです。
販売開始から1年以内に3,200社が、2019年7月には1万1,500社が導入しています。SAP S/4 HANAは、インメモリデータ処理プラットフォームであるSAP HANAを基盤にした新モデルのERP製品として開発されました。一方でSAP HANAとは異なる構造も持っています。例えば、リアルタイム処理性能を高める超高速データ処理や、ユーザーごとのロール別画面設計などにより、さらなる務効率向上が図れるようになりました。
SAP S/4 HANAの代表的な機能は、設備資産管理、経理・財務、製造、研究開発・エンジニアリング、セールス、サービスです。設備資産管理ではスケジュールやデータを包括的に管理し、資産管理を最適化。経理・財務では自動化プロセスなどによりグローバル市場に対応した財務改革を実現します。製造では生産計画改善や複雑な工程をサポート。研究開発・エンジニアリングでは財務とロジスティクス管理により予算内で効果的なプロジェクトを実行します。受注・契約管理で収益を最大化するセールス、統合管理で信頼される顧客サービスの提供も可能です。他に調達と購買、サプライチェーン機能もあります。
SAP2025年(2027年)問題とは
SAP社が提供してきた従来のEPR製品は、長年世界トップシェアを誇っていましたが、2025年にサポートを終了します。SAP2025年問題とはSAP社のERPシステムソフトウェアの保守サポート終了通告を指します。
日本国内でも約2,000社の企業がSAPのERP製品を導入しているとされ、ビジネスの基盤を支えるITシステムだけに、影響は甚大です。保守終了期限により2025年問題と呼ばれていますが、2020年に欧州のSAP社は保守終了期限を2025年末から2027年末に延長すると発表し、実質2年間の延長となりました。
SAPがERPの保守期限を2027年に終了すると決断した背景には、旧世代ERPのリアルタイム性の低下があります。企業経営の基幹システムとなるERPは市場の変化に合わせて機能の追加が求められます。従来の機能に新しい機能が加わり、その整合性を図るために構造が複雑化し、データ量も増加するため、どうしても即応性が低下してしまう現状がありました。
SAP社は今後も企業経営を支えるERP製品を提供するために、SAP S/4 HANAを開発し、旧世代ERPのサポート終了を判断しています。SAP2025年(2027年)問題は企業のIT担当者には切実な課題で、サポート終了を迎える前に、SAP社のERP製品をオンプレミスからクラウドに移行する企業が増えているのが現状です。
SAPクラウド化の後に発生する課題
SAP S/4 HANAはオンプレミス、クラウド、ハイブリッドのいずれにも対応できるので自由に選択可能です。その中で働き方改革やリモートワークの普及もあり、SAP2025年(2027年)問題を契機に、SAP製品ユーザーがクラウド環境に移行しています。
ただ、いざクラウド化を進めようとすると以下のようないくつかの課題が浮かび上がってきました。それぞれの内容を見ていきましょう。
運用や保守のコストが削減できない
SAP社が提供するERPをパブリッククラウドに移行すると、一見、運用や保守のコスト削減につながるイメージがあります。しかし、SAP ERPをパブリッククラウド化したすべての企業でそうであるとは限りません。
オンプレミスは、保有しているハードウェアやソフトウェアの償却期間があります。一定の償却期間を過ぎると運用コストが下がり、毎月一定の運用・保守コストが必要なクラウドより、却ってコストが安くなるケースも少なくありません。ただし、物理的なコストだけでなく、人的なコストやセキュリティ対策コストなども含め、クラウド化による効果を総合的に判断する必要があります。
こうした事情で、SAP ERPをパブリッククラウド化した場合の人的コストやツールにかかる費用、そして自動化のためのコストを知る必要性が生じます。しかし、そうした予測はなかなかできませんでした。
その理由として、パブリッククラウド化した後、企業全体のIT業務量の予測が困難ということが挙げられます。また、大手企業の場合、SAP運用をアウトソーシングすることが多く、インフラ運用コストが見えにくくなる傾向があります。そのため、パブリッククラウド本来のメリットであるはずの業務量の増減に応じたシステム機能のスケールアップやスケールダウンができないという事態を招きました。つまり業務量に応じたERPシステムの最適化が行われず、運用や保守のコスト削減も実現し得ないという課題が発生するのです。
SAPの管理が煩雑
以前のアプリケーション管理ではプロセスとガバナンスに基づいた手法に頼ることで十分でしたが、SAPプラットフォーム管理ではもっと複雑な対応が求められます。SAP ERPをパブリッククラウド化すると、オンライン上にインスタンス(データ構造・実体)がいくつもあることにより、運用管理が煩雑になります。また、社内データのキャパシティニーズに対応して、それらを効率的かつ効果的に社内で管理したり、計画を策定したりする方法がわかりません。つまりSAPプラットフォームを効率的に管理できないのです。
例えば、AIなどで予測分析した高度なビッグデータにより、計画にないダウンタイムの発生を最小限に抑えたいとします。「それをパブリッククラウド化したSAP ERPで実行する場合、高度な分析によりクラウドの業務量を最適化し、ダウンタイムを最小限に抑えるためには、どんな最先端のツールを活用すればよいか」。「重要な社内業務をクラウドで支援してもらうため、複数のベンダーを統合するマルチベンダー管理をどう実行したらよいか」。SAPプラットフォームを十分に管理できていない場合、こうしたことが不明確にならざるを得ないでしょう。
アプリの障害対応に人材が割けない
SAP ERPの運用保守には、アプリケーションの仕様変更のような、一般的な保守もあれば、インシデントやアクシデント対応のような想定外の事態も発生します。また、ERPシステムはハードウェアやネットワークなどのインフラから、OSをサポートするソフトウェア、アプリケーションまで多くの構成要素で成り立っています。いざ、障害が発生しても迅速に原因を追究して対応することが困難というケースも少なくありません。パブリッククラウド化したSAP ERPでも障害の発生を想定し、対策を立てることが必要です。
しかし、SAPを自社で運用するケースが多い中小企業などでは、「システム障害対応に人材を割く余裕がない」という実情もあります。パブリッククラウド化したSAP ERPの運用管理そのものが煩雑で難しく、障害対応にはさらにそれ以上のスキルが求められます。運用に必要な知識やスキルを持つ人材が社内にいない場合、専門の人材を外部に依頼することになるでしょう。その結果、外部のアプリケーションパートナーへの依存度が高くなり、他社製品への切り替えがしづらくなるベンダーロックインを招きかねないのです。
SAPプラットフォームマネージドサービスに脚光
前述した多くのSAPの運用面の課題を解決してくれるのがSoftwareONEのSAPプラットフォームマネージドサービスです。さまざまなITベンダーがサービスを提供していますが、このサービスはSAP ERPを導入している企業でクラウド化が進む中で、運用や管理を任せられるという点に注目が集まっています。専用のアプリケーションにより、ダウンタイムやセキュリティのトラブル発生を防ぐための監視と予測を行います。
また、自社のビジネスやIT戦略に合わせ、ベーシック、アドバンス、プレミアムなど複数レベルのプラットフォームマネージドサービスの選択が可能です。各サービスは自社の現状に合わせてカスタマイズまで可能で、サービス変更も臨機応変に対応できます。
また、プレミアムレベルのサービスの場合、専任のSAPサービスサクセスマネージャーがサポートし、システムの最適化を支援します。技術的な変更情報なども提供し、外部の専門人材としてのバックアップが可能になるため、大変心強いと言えるでしょう。
まとめ
SAP ERPのクラウド化を進める場合には、運用や管理面の計画も含めて検討することが大切です。専門の人材がいないなどの理由で、運用や管理面に不安がある場合には、SoftwareONEのSAPプラットフォームマネージドサービスなどの有益なサービスを利用する方法がありますので、ぜひ検討してみてください。