地球温暖化という世界的な問題はますます深刻化しています。その原因の一つとして考えられるのは、人間が生活を営む上で欠かせないエネルギーの生産・消費に伴い発生する二酸化炭素・メタン・フロンなどの温室効果ガスによるものです。これらが地球の平均気温を引き上げることで、気候変動や海水の膨張、氷河の溶解による海面上昇などを引き起こすのです。
しかし人間は、現在の生活水準を自ら下げ、原始的な生活スタイルへと回帰するようなことはしません。テクノロジーによって深刻化した問題を、新しいテクノロジーで解決しようと試みているのです。数年前から「EMS(エネルギー・マネジメント・システム)」に注目が集まっています。限られたエネルギー資源の消費を最小限に止めることで、エネルギーの節約を行うとともに地球温暖化の原因となる温室効果ガスの発生を抑制するソリューションとして注目されています。そして、オフィスビル・商業ビルに特化したものを「BEMS(ビルディング・エネルギー・マネジメント・システム)」と呼びます。省エネ時代である今日、企業はBEMSを導入することで何が得られるのか?本記事ではその基礎知識からご紹介します。
BEMSとは?
BEMS(ビルディング・エネルギー・マネジメント・システム)は文字通り、オフィスビル・商業ビルで消費されるエネルギーを監視し、適切に管理することで消費エネルギーを抑制するためのシステムです。オフィスビル・商業ビルは数ある建築物の中でも消費エネルギーが大きく、それぞれが省エネ対策に取り組むことで限られた資源を効率よく消費し、かつ温室効果ガスなどの発生を抑えて地球温暖化の促進を阻むことに貢献します。
もちろん、自動車や製造工場からの排気ガスも地球温暖化の原因であり、森林伐採なども大きく関係しているのでBEMSひとつで地球温暖化を食い止められるわけはありません。しかし、長らく続けられてきた環境破壊を停止させるには、環境に配慮したあらゆる対策を講じることが重要なため、BEMSもその一翼を担っているというわけです。
BEMS最大の役割は「消費エネルギーの見える化と、自動制御」です。例えば一般家庭では毎月の水道光熱費の支払い明細に水・電気・ガスの消費量と支払い金額が表示されるので、それによって一応は消費量が把握できるようになっています。ただしその消費量が適切なのか、あるいは基準よりも多いのかを知ることは難しいものです。また、毎月のエネルギー消費量を記録してエネルギー効率化に努めようとする人は非常に稀な存在でしょう。
オフィスビル・商業ビルにおいても同様で、一定期間の間の消費エネルギーを確認できてもそれが適切なのかどうか、どこでどうエネルギーが消費されているのかを把握するのが難しいため、効果的な省エネ対策が実施できない状況にあります。
BEMSはまず「消費エネルギーの今」を見える化してくれます。エネルギーがどこでどう消費されているのかをリアルタイムに表示し、さらに前日や前月、前年などと比較しながら消費量が適切かどうかを客観的に判断する基準を与えくれるのです。もちろん、これだけで省エネ対策は実現しません。
次の問題は「エネルギーの制御」です。消費エネルギーを見える化できても、実際に省エネ対策へ取り組むのは人間であり、だからこそ厳格なルール運用による省エネが難しいという現実があります。そこでBEMSは、見える化された消費エネルギーをもとにシステムで消費量を制御することで、人間の行動に頼らない省エネ対策を実現できるのです。
企業がBEMSを導入するメリット
オフィスビルの開発・管理を手掛けている企業や、自社オフィスビルを保有している企業がBEMSを導入して得られるメリットとは何か?
第一に、BEMSによって省エネ法(省エネルギー法)への準拠が容易に行える点です。一定規模以上のエネルギーを消費するオフィスビル・商業ビルにおいては、省エネ法に基づいてエネルギー消費量の削減に取り組むことが義務付けられています。BEMSならビル内のあらゆる設備の消費エネルギーをみえる化し、かつ自動制御することから人手に頼らず省エネ対策が取れるため、省エネ法への準拠がシンプルになります。
次に、オフィスビル・商業ビル全体として省エネ対策に取り組めることから、エネルギーコストの削減になります。エネルギーの消費量を継続的に記録することで、徐々に消費傾向を明らかにしてエネルギーがより多く集中している設備・機器を特定したり、それらの情報を踏まえてエネルギー消費を効率化したりできます。これによってエネルギーコストを削減できるため、収益性を向上できるでしょう。また、エネルギーの消費データを蓄積すると設備・機器の劣化状態を調査するのにも役立ち、ビル全体の保全活動が最適化され、常にビル全体の環境を最適化することにも貢献します。
そして最後に、BEMSに接続されたセンサーを通じて職場の環境情報まで見える化し、常に快適な環境を整えることも可能です。照度センサーによって自動的に調光したり、温度湿度センサーを通じて常に快適な室温を保ったり、ドアの開閉センサーによって会議室の密閉状態を防いだり(新型コロナウイルス感染症対策)、センサーを駆使することであらゆるビルをスマートにできます。
BAS(ビルディング・オートメーション・システム)との違い
従来からBEMSのような制御システムが存在しなかったわけではありません。BASと呼ばれるシステムは、古くからビル内のエネルギー制御システムとして導入が進んでいました。では、BEMSとBASでは何が違うのか?
BASは設備・機器の運転状況やエネルギーの消費量に関するデータを収集、そのデータをもとに設備・機器の自動制御や故障検知を行ってきました。BASはビル内の設備・機器の監視・管理から消費エネルギーまで全てをカバーする大規模なシステムなので、初期投資が膨大なため大規模なオフィスビル・商業ビルと限定的な導入が進んでいました。
一方、BEMSは消費エネルギーの見える化に特化したシステムです。エネルギー消費に関するデータを、センサー等を通じて取得しそれを解析・分析することで、統計的かつ管理しやすいグラフを作成し、人間とシステムの間に立ってビルのエネルギー情報を見える化します。また、最近では消費エネルギーの見える化等だけでなく、ドア開閉センサーを通じて会議室の使用状況を把握して会議室予約の効率化も可能になるなど付加価値サービスも多くなってきています。
BEMSはこれからオフィスビス・商業ビルに欠かせないシステムであり、最近よく聞く「スマートオフィス」実現に向けての取り組みの1つだとも言えます。また、BEMSとクラウドプラットフォームを連携し新しい制御基盤を作ることでBI(ビジネス・インテリジェンス)等との連携も容易になり、ビル内におけるエネルギー消費を多角的に分析可能な環境が整います。この機会にぜひ、BEMSによる先進的なビル管理についてご検討ください。