今や当たり前のように耳にするリモートワーク制度。日本企業に初めてリモートワークが導入された事例から30年以上が経過しますが、なぜ現在、ここまで一般に拡大できたのでしょうか。
リモートワークが普及するに至った背景や、これからリモートワークの導入を考えている企業の参考になる、導入までの具体的なステップを解説します。
「新たな働き方」リモートワークが広がる背景
そもそも「リモートワーク」とは、ICT(情報通信技術)を活用し、オフィス以外の自宅やサテライトオフィス等で仕事をする、時間や場所にとらわれない働き方のことです。「テレワーク」とも呼ばれます。
厚生労働省が進める働き方改革の一環としても推奨されており、業務規模に関わらず多くの企業で導入が進んでいるリモートワーク。「新しい働き方」として注目を集めた時代を経て、もはや一般的な勤務方法のひとつとしても数えられつつあるのではないでしょうか。
まず、こうした近年のリモートワークの広がりどのような背景があるのか、具体的なポイントをいくつか解説します。
少子高齢化に伴う社会問題
2019年に総務省統計局が公表したデータによると、日本の総人口は2011年以降、一貫して減少を続けています。加えて2018年には15歳~64歳の人口が全体の6割を下回っており、これは比較可能な昭和25年以降のデータの中でも最低の水準です。
今後も進行が予想される少子高齢化による労働人口の減少は、多くの企業にとって死活問題になり得ます。総人口そのものが減少傾向にある上、介護問題や育児参加を理由に、従来の「オフィスへ毎日通勤する」という働き方が選べない人の増加が見込まれるためです。
ライフスタイルの変化により退職を選ばざるを得ない優秀な人材の流出を防ぎ、また新たな人材も確保しやすくなるリモートワークの制度は、導入によって企業に大きなアドバンテージをもたらすと考えられています。
東京オリンピック時の混雑抑止
東京オリンピックの開催が決定したことも、リモートワーク導入企業が増えた一因であると言えるでしょう。令和元年に公表された国土交通省の調査によると、東京圏における電車の混雑率は平均でも163%、ピーク時には200%近くを記録し、平時から非常に込み合うことがわかります。
日本国内だけでなく、諸外国からも多くの観光客が訪れるオリンピック期間中は、電車の利用客もさらに増加することが予想されます。この混雑を少しでも緩和するために、政府や東京都が率先してリモートワークを推進してきたのです。
その一環として、オリンピック開会日に合わせ、協賛企業が始業から10時半まで一斉にテレワークを実施する「テレワーク・デイ」が、総務省と経済産業省の主導により企画されました。残念ながらオリンピックの開催自体は延期になってしまいましたが、このテレワーク・デイには900以上の団体が参加を表明しており、東京オリンピックがリモートワークの広がりに大きな影響を与えたことがわかります。
新型コロナウイルスの感染拡大の防止
上述した理由等により、リモートワーク導入のための基盤が着実に整えられていた中、それを一気に一般に広めることになった要因が、2020年現在、世界的な問題となっている新型コロナウイルスの蔓延です。東京都が同年5月11日に発表した「テレワーク導入率緊急調査結果」によると、従業員数30人以上の都内企業において、テレワークを導入していると回答した企業は全体の約6割にも上ります。新型コロナウイルス流行前、同年3月時点の調査結果が2割強だったことから見ても、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として、リモートワークの導入が一気に広がったことは確実でしょう。
企業におけるリモートワークの導入ステップ
では、実際に企業がこれからリモートワーク制度を導入しようと思った場合、どのような方法で本格実施まで駒を進めていけばよいのでしょうか。ここからは、リモートワーク導入までの手順をステップごとに解説していきます。
1. 自社にとっての明確な導入目的を考える
ここまでリモートワークが拡大してきた背景だけを見ても、リモートワークの導入は人材確保や通勤負担の緩和、非常時のリスクヘッジなど、企業にとって多くのメリットを享受できることがわかります。しかし、具体的にどのような目的のために導入するのかが曖昧なままでは、リモートワークのよさを最大限に生かすことはできません。
まずは、リモートワーク制度を取り入れることで自社におけるどのような問題を解決したいのか、その目的を明確にしましょう。
2. 対象者・適用範囲を決める
次に、実際に制度を導入した場合、それを使用できる対象者の範囲を定めます。どんな業務をしている従業員が、どういった場合に、どの程度リモート勤務できるのかなどです。
たとえば、「育児・介護を行う必要がある従業員のうち、遠隔でも業務を遂行可能な事務職に就いている者は、週に2日までリモート勤務を許可する」のようなパターンが考えられます。初めから全面的に導入するのではなく、トライアル的に少しずつ適用範囲を拡大するのもおすすめです。
3. 就業ルールや労務管理制度を見直す
現状の規則を確認し、リモートワークを実施するにあたって不都合が生じる部分を洗い出します。勤務場所や始業・終業の時刻、手当についてなど、変更が必要な箇所は随時書き換えましょう。社内ミーティングはWeb会議ツールを用いるなど、リモートワーク推進のためのルールを新たに制定するのもひとつのアイデアです。また、情報を外部へ持ち出す機会が増える分、セキュリティに関する規則も再考が必要かもしれません。
加えて、従来の労務管理や人事評価の制度では、新しい働き方に対応しきれない部分も多く出てくるはずです。新たに労務管理システムを導入したり、リモートワークをする人としない人が同様に評価できる新たな人事評価基準を設けることも必要です。
4. 導入計画を策定する
続いて、リモートワークの導入計画を具体的に策定しましょう。計画書では、ステップ3までで定めた制度やルールを明確にし、そのための環境構築をどのように行うのか、社内への周知(研修やセミナーなど)はどう実施するかといった点をスケジュールに盛り込みます。実際の検証を踏まえた、継続計画の策定や報告をあらかじめ導入計画に含めておくことがポイントです。
5. 導入後の効果検証と改善を行う
実際にリモートワーク制度を導入したら、少なくとも3か月以上が経過したころに、ステップ1で考えた導入目的と照らし合わせて、得られた効果と見つかった課題を明確にします。調査方法は、従業員に対するアンケートやヒアリング、グループインタビューなどが適切です。もしうまくいかなかった点があるなら、それはなぜなのか、理由と背景を具体的に探りましょう。
試験導入の際だけでなく、本格導入後もこうした効果検証を定期的に行うことで、より実態に即した制度にブラッシュアップできます。
まとめ
働き方改革の一環でもあるリモートワーク制度は、進行する少子高齢化や首都圏における満員電車の対策としても実施が推奨され、少しずつ広がってきました。その背景があったからこそ、新型コロナウイルス感染防止対策としての爆発的な導入増につながったと言えるでしょう。
まずは、試験的に小規模から取り入れてみてはいかがでしょうか。