2019年にAIはビジネスの実用段階に移行しつつあります。AIを使って証券会社で投資を自動化したり、コールセンターのチャットボットの対応を最適化したり、バックエンドでビジネスにAIを使う企業の事例がめざましく登場するようになりました。ホワイトカラーの業務効率化であるRPA(Robotic Process Automation)の導入も進んでいます。
AzureのAIプラットフォームの全体を整理して競合製品AWSと比較し、今後のAI市場の動向をまとめました。
AzureによるAIプラットフォームの概要
ビジネスでAIを活用する際に核となるソリューションには、クラウド上にビッグデータを蓄積するデータベースやストレージのほか、機械学習、データ解析(ナレッジマイニング)、アプリケーションとエージェントがあります。クラウド基盤としてデータベースは必須ですが、その他の3つのソリューション群から、AzureによるAIプラットフォームの概要を解説します。
機械学習
Azureの機械学習ではオープンソースのフレームワークであるTensorFlow、Pytorch、scikit-learnが利用できます。いずれもライブラリが充実し、活発なコミュニティが展開されているフレームワークです。
Azureは次のような機械学習のサービスを提供しています。
Azure Machine Learning(Azure ML)
一般的に、機械学習には難解な数学の知識がなければ利用できないイメージがあります。しかし、Azure Machine Learningは、用意されたモデルを使ってWebブラウザ上で簡単に機械学習を行うことができるPhythonベースのサービスです。機械学習では予測を前提に実験を行いますが、ビジュアルインターフェースを用いてドラッグ&ドロップで機械学習を実験し、その後デプロイすることが可能です。
Azure Databricks
ビッグデータを解析するプラットフォームです。分散処理でビッグデータを高速処理するオープンソース「Apache Spark」ベースで構築され、Azure Machine Learningを統合しました。Azureのストレージやデータベースから情報を読み取り、Sparkで変換して分析結果を得ることができます。
ONNX(Open Neural Network Exchange)
機械学習を実行する際に必要なモジュールやモデルが用意されています。ONNXを利用して、さまざまなフレームワークやハードウェアプラットフォームに移行できます。
ナレッジマイニング
AIの解析対象となる情報は、テキストに限りません。写真や動画など、リッチメディアの解析が求められる場合があります。AzureではAI機能を搭載したクラウド専用の検索やデータ変換サービスによって、コンテンツからパターン、関係性、キーワードなどを抽出します。
Azure Search
機械学習を実行する際に必要なモジュールやモデルが用意されています。ONNXを利用して、ビジネスに活用したいフレームワークやハードウェアプラットフォームに移行できます。
Form Recognizer
AIには機械学習が必要ですが、手作業のラベリングによるデータ整形はとても煩雑で時間がかかります。Form Recognizerは、ドキュメントからテキストと構造を迅速に抽出するAPIです。教師なし学習のコンポーネントによって、レイアウトやフィールドと入力内容の関係を把握して出力をカスタマイズします。
アプリケーションとエージェント
WebサイトやコンタクトセンターでチャットボットにAIの搭載が進んでいます。コンタクトセンターの場合、AIが問い合わせ対応の一部を代替して、属人的だったオペレーターのスキルを平準化したり、研修の省力化をはかったりすることが可能です。
Asureのアプリケーションとエージェントは「Cognitive Services」として提供されています。
Cognitive Services
Webサイト、チャットボットなどを開発できる一連のサービス群です。ユーザーと自然なコミュニケーションを実現するアプリケーション開発のために、「視覚」「音声」「言語」「検索」「決定」の5つの領域の機能で構成されています。
視覚の領域では、静止画、動画(ビデオ)、電子書籍に使われているデジタルインクなどを認識します。OCR(光学文字認識)によって読み取った手書き文字をテキスト化することにより、業務の効率化をはかることができます。写真もしくは動画の顔認識によって人物を特定したり、感情を読み取ったり、データの形式にとらわれない活用が可能です。
- Computer Vision
- Face
- Video Indexer
- Custom Vision
- Ink Recognizer(プレビュー版)
- Form Recognizer(プレビュー版)
音声の領域では、音声をテキストに変換することはもちろん、テキストを音声に変換します。さらに認証や認識の手段として言語を使うサービスを提供します。
- Speech Services
- Speaker Recognition
言語の領域では、自然言語処理によって構造化されていない文章の構造化、キーワード抽出のほか、日本語を英語に翻訳するなど異なった言語を使う話者どうしのコミュニケーションを支援します。
- Text Analytics
- Translator Text
- QnA Maker
- Language Understanding
- Immersive Reader(プレビュー版)
検索の領域では、Webページ、写真、ビデオ、ニュースなどあらゆるリソースからBing Search APIsを使って調べることが可能になります。
- Bing Search APIs
- Bing Autosuggest
- Bing Spell Check
- Bing Local Business Search(プレビュー版)
決定の領域では、データベースに蓄積された情報に基づいて、適切な情報をレコメンデーション(推薦)します。
- Content Moderator
- Personalizer
- Anomaly Detector(プレビュー版)
AI分野におけるAzureとAWSの比較
続いてAzureのAIソリューションを、競合となるAmazonのAWS(Amazon Web Services)と比較します。
Microsoft Azure |
AWS |
||
機械学習 |
Azure Machine Learning Azure Databricks ONNX |
Amazon SageMaker |
|
ナレッジマイニング |
Azure Search Form Recognizer |
Amazon Comprehend Amazon Textract |
|
アプリケーションとエージェント |
全体 |
Cognitive Services |
Amazon Lex |
視覚 |
|
Amazon Rekognition |
|
音声 |
|
Amazon Polly Amazon Translate Amazon Transcribe |
|
検索 |
|
|
|
決定 |
|
Amazon Personalize Amazon Forecast |
Azure Machine Learningに該当するサービスが「Amazon SageMaker」で、トレーニングを行いながらカスタマイズした機械学習モデルをデプロイ可能です。
チャットボットの分野では、Azureの場合、AIソリューションとは独立して「Azure Bot Service」があります。AWSのAmazon Lexに対応するソリューションです。Azure Bot Serviceはボット開発に特化し、Azure Cognitive Servicesと統合することによって、強力なAIアシスタントとして機能します。
顔認識や書類をスキャンしてテキスト情報に変換して管理するなど、多様なビジネスニーズが考えられる画像認識では、Azure Cognitive Servicesに統合されているComputer VisionがAWSのAmazon Rekognitionに対応します。
AzureとAWS、AIプラットフォームの違い
Amazonの場合には物流業界の巨大な企業として運用したシステム、レコメンデーションエンジン(おすすめ機能)を、外部向けにソリューションパッケージとして提供しています。また、消費者向けにはAlexaを搭載したスマートスピーカー、スマートディスプレイを発売しているため、音声認識や翻訳機能を前面に打ち出した構成です。
しかし、マイクロソフト社の場合、コンシューマー製品はもちろん、サーバーやPCのOS、Officeなどエンタープライズ向け製品を提供してきました。この実績のもとに、企業向けソリューションとしてAIをパッケージ化しています。AzureではCognitive Servicesとして、音声認識や画像認識によるコミュニケーションツールを統合したプラットフォームを提供している点に大きな違いがあります。
まとめ
IT専門調査会社のIDC Japanが発表した2018年~2023年における国内AI市場は、CAGR(Compound Average Growth Rate:年平均成長率)で46.4%、2018年に532億円(前年比91.4%増)だったAI市場は2023年には3,578億円に成長すると予測しています。2018年~2023年の前半ではコンサルティングやインテグレーションなどサービス市場の比率が高くなり、後半ではAI機能を組み込んだアプリケーションソフトウェアの市場が高まると考察しています。
現状では、まだオンプレミスのサーバーが使われ、企業は完全にクラウドシフトに向かっていません。AIに関してもコンサルティングが必要な段階です。
しかし、IDC Japanが予測するように、あらゆるビジネスでAIが使われ始めるようになると、膨大なデータを迅速に処理するためにクラウドシフトが加速するでしょう。オープンソースを取り入れてコストダウンをはかるとともに可用性を高め、エンタープライズ向けの統合AIソリューションを展開するAzureは、本格的なAI時代になくてはならないプラットフォームになり得る可能性を秘めています。