少子高齢化や医療従事者の人手不足が深刻化する中、今後の医療業界においてはAIの活用が強く期待されています。本記事では、その中でもAIによる自動診断技術にフォーカスし、医療におけるAI活用の現状と可能性について解説していきます。医療現場へのAI導入を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
AI診断市場は2025年には100億円に拡大という予測も
まずはAIの活用がどれほど広がっているか、市場規模の面から見ていきましょう。株式会社矢野経済研究所が2020年に発表した調査によると、日本におけるAI診断システムの市場規模は2019年の3億円から年々拡大し、2025年には100億円規模にまで到達すると予測されています。実際、2021年には新型コロナウイルスによる肺炎の診断を支援するAIシステムが発売されるなど、AIによる診断技術の実用化は広がりつつあります。
また、政府の成長戦略においても、新型コロナウイルスの感染拡大や少子高齢化の進行が社会的に問題視される中、次世代のヘルスケア戦略として、AI活用を含むデジタル技術の活用が重点課題に掲げられています。つまり、医療AIの発展・活用は、いわば国策として位置づけられているのです。
病気の診断にAIを活用するメリットと課題
では、病気診断にAIを活用するメリットとしては、一体どのようなことが挙げられるのでしょうか。また、人間の医師に代わってAIがそうした診断業務を行うに際し、どのような課題が想定されるのでしょうか。以下では、AI診断のメリットと課題について解説します。
メリット
AIの主な活用メリットとしては、次のような事柄が挙げられます。
医師不足の解消
第一に挙げられるのは、診断業務をAIによって自動化・効率化することで、現場における業務負荷の軽減や医師不足の解消が期待できることです。従来、患者の病気を適切に診断するためには、その患者の病歴や類似した症例などを長い時間かけて確認する必要がありました。この傾向は、患者の病歴が長ければ長いほど顕著になり、医師の負担を増大させる一因となっています。
しかし、膨大なデータベースの中から、AIが迅速に該当する可能性の高い病気を抽出することで、医師はより効率的に診療に当たれるようになります。こうした診断プロセスの効率化・迅速化は、医師不足が顕在化している現在の医療業界において大きなメリットといえるでしょう。
病気の早期発見、診断精度向上、見逃し防止
医療AIは、病気の早期発見や、診断精度向上による病気の見逃し防止に寄与します。たとえば、AIによる画像診断はすでに、胃がんの早期発見のために活用されています。正常な臓器と異常のある臓器の膨大な画像を機械学習させたAIは、人間の知覚能力では認識できないような微妙な病変も発見可能です。
また、先述したように患者の診断をするため、医師は膨大なデータを参照して病気の特定に努める必要があります。こうした情報検索をAIによって効率化できれば、人の目では見逃しがちであったり、発見が遅れがちであったりする症例の少ない病気の特定も容易になるでしょう。
患者の負担軽減
医療AIの活用は、患者にとっても恩恵のあることです。現在では、パソコンやスマホで利用できるAI診療の導入が進んでいます。こうした診断サービスを活用すれば、患者はわざわざお金や体力、時間を使って医療機関まで出向くことなく、今までよりも手軽に医療サービスを受けることが可能です。
AIによるこうした遠隔診療は、地域の医療格差の是正にも有効と見込まれます。また、コロナ禍で示されたように、感染症の流行によって通院自体が難しくなる中でも、それに代わる手段として効果が期待されます。
課題
AIを病気診断に活用する際には、次のような課題への対処も必要です。
セキュリティ対策
AIが病気を診断する際には、患者の個人情報にもかかわるさまざまなタイプの情報にアクセスする場合があります。そして、こうした個人情報が保管されたデータベースは、サイバー犯罪者にとって絶好の標的になりえます。
たとえば、シンガポールでは2021年10月、大手の病院チェーンの外部委託先が不正アクセスによる被害を受けました。報道では、この被害により、サーバーに保管されていた患者の氏名や国民登録番号、連絡先、銀行口座の情報などが流出したおそれがあるとされています。このように、個人情報が不正に使われたり流出したりしないよう、医療データの管理運用には厳重なセキュリティ対策が必須です。
診断プロセスのブラックボックス問題
高い精度が見込まれるAI診断ですが、AIがどのような思考を経て、その診断結果を出したのかというプロセスがわからない場合もあります。とりわけ未知のデータに対しては、AIが意図しない予測結果を導いてしまうリスクもあるでしょう。人の顔が見えないAIによる自動診断には、ただでさえ感覚的な不信感を抱いている人もいます。それゆえ、どのようなデータがインプットされてAIが診断結果を出したのか、その関連性を明確にすることは、患者からの信頼を得るためにも必要です。
AIによる診断の最新状況
続いては、AI診断が具体的にどこまで進んでいるのか、現在の最新状況をご紹介していきます。
自動問診の普及
先にも触れたように、現在ではスマホなどを使ったAIによる自動問診サービスが普及しつつあります。こうした自動問診サービスでは、AIが自動生成する質問に答えていくことで、患者は自分がかかっている病気の名前や受診すべき診療先などがわかります。実際に病院に行く前に、このような情報を得ておくことで、患者はさまざまな診療科を行き来することなく、必要な診療科へ直行できます。
また病院側でも、このようなデジタル問診票を活用することで、医師が一からカルテを作る手間が省けるので、事務作業の大幅な削減が可能です。
画像診断の精度向上
AIによる画像診断の精度向上も目覚ましく進歩しています。たとえば近年では、内視鏡の検査中にリアルタイムで大腸がんの可能性の有無を検出するシステムが、医療機器として承認されました。ほかにも、頭部CT画像から脳出血の兆候を発見できるAIや、脳のMRI画像をAIが解析して、脳動脈瘤を検出するAIなどが発売されています。さらに、専門医並みの精度で筋ジストロフィーなどの筋肉の病気を判別できる画像認識AIも開発されるなど、AIによる画像診断技術はすでに多くの医療現場で実用化されています。
会話から認知症患者を早期発見
Microsoft社も、ヘルスケア分野におけるデジタル活用に貢献すべく、積極的な支援を行っています。
たとえば、株式会社FRONTEOが開発を進めているAIソリューションのひとつに、会話から認知症患者を早期発見できる「認知症診断支援AIシステム」があります。このシステムには、FRONTEOの自然言語AI「Concept Encoder」が活用されていますが、このAIプログラムのプラットフォームには「Microsoft Azure」が使われているのです
FRONTEOは、このシステムによって、診断が難しい軽度の認知症を10分程度の会話で発見し、早期治療や進行抑制につなげることを目標にしており、Microsoft社もその実現に向けて協力しています。
まとめ
コロナ禍や少子高齢化を受け、日本において患者の診断などを行う医療AIの重要性はますます高まっています。Microsoft Azureは、こうしたAI診断システムを構築する際の基盤として活用されています。AI活用のシステム基盤としてAzureを導入する有効性については、下記のページもご参考ください。
https://azure.microsoft.com/ja-jp/overview/ai-platform/#overview