Azureは、クラウドで利用できるAI(人工知能)のサービスを拡充させています。
第3次AIブームとして2000年代の初頭頃から多様な取り組みが活発になり、ビジネスやデータサイエンスの分野で、実用化が進められるようになりました。技術動向の変化に応じて、Azureもまた最先端のAIサービスの追加やアップデートを積極的に行っています。本記事では、AI開発に集中するための環境構築・検証を行ってくれるサービスや、各サービスについて学ぶための試験について紹介します。Azureの概要やメリットについては、下記の記事で解説しています。ぜひ本記事と併せてご覧ください。
Microsoft Azureとは|何ができる?基礎から初心者にも分かりやすく解説
Azure AIとは
Azure AIとはMicrosoft AzureにおけるAI開発用のプラットフォームです。主に9個のサービスで構成されており、機械学習や自然言語処理、画像認識など、さまざまな開発が可能です。
また利用できるユーザーレベルも多様です。GUI操作のみで操作が可能な非エンジニア向けのサービスがある一方で、コーディングに慣れている開発者が、より効率的に開発を進められるサービスもあります。このように、さまざまなユーザーが利用可能なサービスが取りそろえられていることが特徴です。
AIの開発には膨大なリソースが必要です。例えばサーバーを用意するだけでも、高性能であれば機材だけで数百万円がかかり、場所代や電気代などのランニングコストも必要になります。Azure AIを利用し、リソースを用意するコストを省略できると、リソースをAI開発に集中させることが可能です。
上記のようにAzure AIは目的、利用者の得意分野、コスト耐性などの観点で幅広いユーザーが利用できるAI開発プラットフォームです。
Azureで提供されるAIサービスの全体像
まずAzureのAIサービスを対象者、メリット、サービスの種類から整理します。
Azureで提供されるAIサービスの対象者
AIサービスを利用したビジネスやデータサイエンスのシステム開発には、さまざまな人材が関わります。経済産業省が課題解決型AI人材育成の「AI Quest」で提示したように、AIサービスに関わる人材には、技術理解をビジネスに翻訳するような能力が求められます。広義ではあらゆる開発者がAIを理解して、実際のソリューションに活用できることが理想といえるでしょう。
したがって、AIに特化したデータサイエンティスト、AIエンジニア、機械学習(ML)エンジニアなど専門的な職種の人材とともに、アプリケーション開発者全般、そしてAIを採用したビジネスを拡大する役割の営業部門やマーケティング部門を巻き込む必要があります。
このうちAzureが展開するAIサービスは、データサイエンティストや機械学習エンジニアに先端的な環境を提供します。さらにGUIによる直感的な操作を実現しているため、非エンジニアによる開発も可能です。
データサイエンティストには、オープンソースによる人気の高いフレームワークと連携することによって、高度な数学や統計処理にも応えられる環境を提供します。機械学習エンジニアに対してはDevOpsの環境を整備し、実験とトレーニングを繰り返して機械学習の精度を上げるAzure Machine Learningのサービスがあります。
AIのプロフェッショナルを対象としつつ、一般的な開発者も、これまでの延長線上で直感的にアプリケーションにAIサービスを追加できることが特長です。
AzureはAI業界でも強みを発揮してきている
MicrosoftではSAPなど外部のソリューションに対して、社内で実証した後でサービスを提供しています。AzureのAIサービスも社内で実証済みです。Microsoftの社内で蓄積されたノウハウおよび最適化された技術で、サービスを使用できます。
また、Azureの強みであるエンタープライズビジネス向けのインフラストラクチャーや、世界に拡がるリージョンの利用、幅広いコンプライアンスに対応した堅牢なセキュリティを利用できます。このようなAIを搭載したシステムに対する理解、機密性の確保、統合された管理機能によって、信頼性の高いAIサービスの導入を実現します。
ガートナーでは2020年2月に「Magic Quadrant」のレポートで、MicrosoftをAIサービスのリーディングカンパニーの1つとして位置づけました。
Microsoftの強みとして、まずトレーニングが必要な機械学習とともに、学習済みのサービスを提供していることが評価されました。この優位性によって、市場で最も包括的なAIサービスの1つとしています。その他の強みとしては、導入の選択肢がAzureだけでなく他のクラウドやオンプレミスなど幅広いこと、自然言語サービスにおいて最大級ともいえる多言語を採用していることが挙げられます。
そしてMicrosoftはChatGPTを開発したOpenAIへの投資を行っており、GPTなどのモデルを各サービスで利用できます。よってAI業界でも先頭集団にいる状態です。
例えば、Azure OpenAI ServiceはGPTモデルをAPIで利用できるようにしたサービスが挙げられます。またMicrosoftが提供する生成AIのCopilotにもGPTが用いられています。
これらについて別記事も用意していますので、あわせてご覧ください。
Azure OpenAI Serviceとは?基本情報や機能を詳しく紹介
CopilotとBingはどう違う?使い方や制限に注目して紹介
Azure AIで提供される主なサービス9選・一覧
ここからは、Azureの代表的な9つのサービスについて紹介していきます。
- Azure Cognitive Services
- Azure Machine Learning
- Azure AI Content Safety
- Azure Databricks
- Data Science Virtual Machines(DSVM)
- ONNX
- Azure AI Bot Service
- Azure AI Document Intelligence
- Azure AI Search
Azure Cognitive Services
Azure Cognitive Servicesは、ビジネスの実用面における認知(コグニティブ)に特化したAIサービスです。ガートナーが評価している通り、学習済みのAIサービスを提供しているところに特長があります。以下のような、広範囲のサービスが用意されています。
:言語処理関連のAIサービス
テキストの読み上げができるSpeechや翻訳機能のImmersive Reader、テキストからキーフレーズなどを抽出するAzure AI Langurage, 100種以上の言語でリアルタイムの翻訳を行うTranslatorがあります。
:音声処理関連のAIサービス
音声を検索可能なテキストに書き起こすSpeech to Text、逆にテキストから滑らかな発音の音声を生成するText to Speech、音声をリアルタイムで翻訳するSpeech Translation、音声から話者を認識するSpeaker Recognition(プレビュー版)が音声処理関連のAIサービスです。
:画像・動画処理関連のAIサービス
Visionは学習済みのモデルを利用できるサービスです。画像に書かれている文字の認識(OCR)、人間の顔や表情を検出するFace、ドキュメントのフォームを認識してテキストや構造などを抽出するForm Recognizer、、映像をインデックス化するVideo Indexerのように、ビジュアル関連のさまざまな用途にわたってAIサービスを拡充しています。
Custom Visionは独自の画像認識モデルを構築、学習できるサービスです。
VisionはMicrosoft側で学習済みのモデルを利用しますが、Custom Visionは自社でモデルの構築から始めます。最低でも50枚程度の画像を用意し、構築したモデルに学習させましょう。
Azure OpenAI Service
Azure OpenAI ServiceはOpenAIのモデルをAPIで利用できるサービスです。Azure OpenAI Serviceを用いることで、自社が開発するアプリケーションからAPIを実行しモデルによる処理を実現できます。例としてカスタマーサービスやチャットボットへの活用が可能です。
ChatGPTでもAPIの利用は可能ですが、Azure OpenAI Serviceを用いることで、より高いセキュリティやデータガバナンス遵守のメリットがあります。
Azure OpenAI Serviceについては別記事で詳しく解説しているのであわせてご覧ください。
Azure OpenAI Serviceとは?基本情報や機能を詳しく紹介
Azure Machine Learning
機械学習モデルのトレーニング、デプロイ、さまざまな処理と保存の自動化、分析結果を追跡、総合的な管理環境を提供します。Azure Machine Learningの特長は、GUIによる直感的な操作ができることです。SDKを使用してPythonもしくはR言語のコードを記述して処理を行うことも可能ですが、Azure Machine LearningデザイナーもしくはAzure Machine Learning Studio(classic)による直感的な操作を備えています。
:Azure Machine Learning Studio
Azure Machine Learning StudioはAzure Machine Learningを実行するインターフェースのうち、GUIによる直感的な操作ができるプラットフォームツールです。SDKのように開発環境へのインストール作業も不要で、スタジオに統合されているJupyter Notebook にコーディングして、ジョブ実行が可能です。
また実行メトリックをグラフやヒートマップなどへの視覚化もできます。開発環境で行っていた作業をAzureのGUI上で行えるため、従来エンジニアが行ってきた環境構築の負担を減らし、開発に集中できます。
:Azure Machine Learning デザイナー
Azure Machine LearningデザイナーはAzure Machine Learningにおいて、コーディングをすることなく機械学習のワークフローを作成できるサービスです。Azure Machine Learning Studioはコーディングを行う開発者向けに負担を軽減するサービスでしたが、Azure Machine Learningデザイナーはコーディングすら不要となります。データセットと処理内容をドラッグ&ドロップでフローチャートをつくるだけで使えます。
Azure AI Content Safety
Azure AI Content Safetyは生成AIによって生成されるコンテンツの安全性を分析できるサービスです。対応しているコンテンツはテキストと画像です。
Azure AI Content Safetyを利用すると生成されるコンテンツの性的、暴力、自傷的などに関する重大度を計測できます。重大度から適切でないコンテンツと判断されれば、生成されるコンテンツが適切になるように、モデルの修正が可能です。
これらの機能から、教育現場やSNSのように公共の場を想定した用途が想定されています。
またプレビュー版ですが、プロンプトの安全性を高める機能や、ユーザーが提供するテキストに基づいたテキストを生成できているのか検出する機能なども登場しています。
Azure Databricks
Apache Sparkベースで分析を行うための分散処理ソリューションで、Databricksの環境をAzure上に自動的にセットアップします。Azureに最適化され、ソリューションを組み合わせて多様なアーキテクチャを構成できます。大企業でビッグデータの分析を行うときに信頼性の高い処理を確保し、共同作業のできる環境を構築します。
Data Science Virtual Machines(DSVM)
DSVMはデータサイエンス、AIの機械学習を目的としてプロビジョニングされたクラウド上の仮想マシンです。以下の仮想マシン用テンプレートがあります。
- Data Science Virtual Machine - Windows 2019
Windowsの仮想マシンにAzure Machine Learning SDKおよびCLIのような頻度の高いツールを事前にインストールされた状態でデプロイできます。こちらを使えば実運用に向けたセットアップの負荷を軽減できます。
ONNX
ONNX(Open Neural Network Exchange)は、さまざまなフレームワーク(TensorFlowなど)のモデルをONNX形式に変換できるサービスです。従来はフレームワークと実行環境の組み合わせごとに、最適な構築をする必要がありました。ONNX形式に変換することで組み合わせを気にすることなく、さまざまなプラットフォームやデバイスで実行できます。
Azure Machine LearningでONNXモデルの実行や管理を行えるので、任意のフレームワークにて実装したモデルをAzureに移すことでONNXへの変換、モデル実行、管理、監視をワンストップで行うことも可能です。
Azure AI Bot Service
Azure AI Bot Serviceはボット開発用の統合環境です。SDKを用いてのコーディングもしくはGUIによるコーディングなしのボット開発ができます。またCognitive Servicesとの連携も可能です。Cognitive Servicesによる学習済みモデルを使用できるので、Microsoft TeamsやWebページにセットしたボットの質問対応を高品質化させることも容易になります。
Azure AI Bot Serviceと他社サービスを連携させることも可能です。Teamsだけでなく、SlackやLINEなど他社のサービスにAzure AI Bot Serviceを連携させて、チャットボットを作成できます。これによりカスタマーサポートや従業員による情報検索の利便性向上の実現が期待できます。
Azure AI Document Intelligence
Azure AI Document Intelligenceはドキュメントの情報を正確に取り出せるAIサービスです。領収証、レシート、カードなどドキュメントの内容を学習させておくことで、読み込ませた際に必要な情報を抽出できます。それだけでなく、経理や分析、また別のサービスと組み合わせることで契約の自動化などにも使えるので、人が行う作業を大幅に効率化できます。
事前構築済みのモデルには請求書、領収書はもちろん、給与明細なども用意されており、ファイルを読み込ませるだけでデータの抽出が可能です。
また事前構築済みモデルに用意されていない書類にもカスタムモデルを生成、学習させ、データの抽出を実現できる機能もあります。
Azure AI Search
Azure AI Search(旧称 Azure Search, Azure Cognitive Search)はAI機能が組み込まれた全文検索サービスです。Google検索エンジンのように、ユーザーが入力したキーワードに対して、関連するテキストやコンテンツの検索結果を表示できます。AIによって画像内に書かれている文字の解析や、文章のあいまい検索、文字入力のオートコンプリートなどの機能も備わっています。
Azure AI SearchはAzureの他のサービスとの連携にも優れており、Azure Machine LearningやAzure Functionsに組み込んだ利用も可能です。情報検索を活かしたサービスの開発も進めやすくなります。
Azure AIを利用するメリット
Azure AIを利用するメリットとして以下があります。
- 初期費用がかからずに利用開始できる
- 高度なセキュリティを利用できる
- サービスの拡張が続いている
- 地域ごとの法律に対応しやすい
初期費用がかからずに利用開始できる
Azure AIは初期費用をかけずにAI開発を開始できます。従量課金制のため初期費用はかからず、開発に利用した分だけ料金を支払えば利用可能です。
AI開発をしようと思えば莫大なコストが必要です。例えば以下が必要になります。
- サーバー調達費用やランニングコスト
- 開発用ソフトウェアのライセンス
- 開発者の人件費
特にサーバーの調達やランニングコストは大きな負担になります。高性能なサーバーが必要になるだけでなく、発熱量も大きいため冷却装置による電気代も馬鹿になりません。昨今の生成AIブームにより、消費電力量が爆発的に増えているというニュースもありました。
Azure AIは企業がAI開発に必要とする莫大なコストを軽減できるメリットがあります。
高度なセキュリティを利用できる
Azure AIを利用することで、高度なセキュリティを同時に利用できることもメリットです。AzureはMicrosoftによって厳重なセキュリティ体制が敷かれています。Azure AI利用時にももちろん適用されており、ユーザーはAzureのセキュリティに守られながら安心してサービスの利用が可能です。
先述した莫大なコストに加えて厳重なセキュリティ対策も必要となると、よりコストが重くなります。AI開発は社内情報や顧客情報など、重大なデータを扱うこともあるため厳重なセキュリティ対策は必須です。脆弱性があると、たちまちデータを盗まれたり、悪いデータを学習させられてしまう可能性があります。
Azure AIを利用すれば追加の負担なく、Microsoftによる厳重なセキュリティを利用可能です。
サービスの拡張が続いている
Azure AIはサービスの拡張が続いていることもメリットです。AIサービスは各社が切磋琢磨する状況が続いています。例として生成AIはChatGPTやCopilot、Geminiが毎月のように新しいモデルを登場させている状況です。
Azure AIもMicrosoftがニーズやブームに合わせたサービス拡張を続けています。サービスの種類が増えることや、サービスの性能が上がることで、ユーザーは新たな価値を創出できるチャンスが増えるでしょう。
またAzure AIはクラウドサービスのためリソース面の拡張もしやすいです。サーバーの性能を上げたい場合やサービスを追加したい場合でも容易に対応できます。
Azure AIはサービスの拡張による恩恵を受けやすいことがメリットです。
地域ごとの法律に対応しやすい
Azure AIは地域ごとの法律に対応しやすいメリットがあります。
データの扱いは国や地域ごとに法律が決められています。多国籍の企業が法律に従おうと思えば、オフィスやデータセンターの位置ごとに法律を確認し、ルールを見直さなければなりません。
Azureは世界各国にデータセンターを持ち、各地域の法律に準拠できます。Azure AIにも適用されており、ルールを見直さずとも法律に触れることなく安心して利用が可能です。
Azure AIを利用する際の注意点
Azure AIを利用する際の注意点として以下があります。
- 専門知識が必要なサービスもある
- 正確なデータを集められるかどうかは通信環境が大切
専門知識が必要なサービスもある
Azure AIには専門知識が必要なサービスもあります。
Azure AIは非エンジニアでも扱えるようにGUIのみで開発を進められるサービスが用意されています。しかし、Azure AIのすべてのサービスが非エンジニア向けではありません。
開発者が開発しやすいように、開発環境の準備がされており、開発は従来同様にコーディングを中心に行うサービスもあるためです。開発者向けのサービスは当然専門知識も必要になります。
よって「専門知識0でAzure AIの全てのサービスを扱える」という認識は誤りです。
正確なデータを集められるかどうかは通信環境が大切
Azure AIはクラウドサービスのため、通信環境次第では正しくデータを集められないことがあります。
クラウドサービスは主にインターネットを経由してアクセスします。インターネット接続が不安定な環境では、ユーザーが思うように機能を発揮できません。特にAIの学習はデータ収集が大切なポイントです。中には工場での製造や株式の動向、ゲームのようにリアルタイム性が求められるデータ収集もあるでしょう。
ネットワーク環境が不安定だと、正しくデータを収集できず、学習やその後の開発に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
Azure AIの「できること・使い方」を学ぶ・Azure認定資格
AzureのAIサービスを紹介してきましたが、より詳しく知りたいと思った方はAzureの認定資格試験に挑戦してみてはいかがでしょうか。Azureは初心者向けに以下3つの試験が用意されています。
資格名 | 試験コード | 試験内容 |
Azure Fundamentals | AZ-900 | クラウドサービスの基礎知識 Azureのコンピューティング、ネットワークサービスの役割 |
Azure AI Fundamentals | AI-900 | 機械学習(ML)と人工知能(AI)の概念 AzureのAIサービスの役割 |
Azure Data Fundamentals | DP-900 | ITにおける「データ」の概念 Azureのデータサービスの役割 |
AzureのAIサービスについて学びたいのであれば、AI-900を受験してみましょう。
Microsoftの公式ページに用意されているラーニングパスで試験内容について学習できます。
まとめ
Azure AIには9つのサービスがそろえられており、Azureの莫大なリソースを存分に活かした開発が可能です。すでに学習済みのモデルを利用する場合でも、新たなモデルを開発する場合でもAzure AIは役立ちます。最適な開発スタイルを選択し、AIを活用したサービスの構築をAzure AIで実現しましょう。
AIサービスは開発環境の準備、開発、試験とさまざまなプロセスが必要になりますが、AzureのAIサービスを用いることで開発に注力できます。Azureの豊富なリソースから、より便利なAIサービスが登場することに期待しましょう。