人工知能(Artificial Intelligence:AI)は身近なものになりました。スマートフォンやスマートスピーカーなどに使われ、クルマの自動運転の実現も間近です。業界を問わずに、人工知能を組み込んだシステムが活用されています。
あらためて人工知能とはどのようなものか、定義や種類を解説します。
人工知能の定義、そもそも知能とは何か
人工知能という言葉は、1956年にアメリカの科学者ジョン・マッカーシー氏が用いたことが起源とされています。しかし、彼が提唱した人工知能は、人間が知能を使ってできることを代替する機械に過ぎませんでした。
その後、3回の人工知能ブームがあり、ディープラーニングの登場によって人間の能力を超えるような人工知能に進歩を遂げています。
実用化が進む人工知能ですが、実は明確な定義がありません。
総務省の『情報通信白書』の平成28年版に、国内の専門家による人工知能の定義が掲載されています。ただし、それぞれの専門家によって見解が異なり、白書では人工知能を明確に定義することは困難であると記しています。令和1年版においても「AIに関する確立した定義はないのが現状である」という見解です。
確立した定義はない人工知能を、あえて定義するなら
明確な定義はないとはいえ、『平成28年版 情報通信白書』の記載から専門家の考える人工知能について整理してみましょう。
第1に当然といえば当然ですが、人工的に作られたものであるということです。しかし、仮に人工知能が自律的になり、みずから人工知能を作るようになった場合、それは人工知能とはいえないのではないか?という疑問が生まれます。
第2に、人工知能の知能に関する定義では、「知能の定義が明確ではないので、人工知能を明確に定義できない(大阪大学・浅田稔氏)」という指摘があります。困難であることを踏まえた上で、さまざまな見解をまとめると以下のようになります。
- 人間を模倣、頭脳活動をシミュレーションできるシステム
- 人間のレベルを超えた知能
- 「きづくことのできる」コンピュータ
人間の知能を模倣していることを指摘する専門家が多く、「究極には人間と区別が付かない(公立はこだて未来大学・松原仁氏)」という考え方は、人間とコンピュータを対話から判別するチューリングテストに基づくものといえるでしょう。
チューリングテストは、数学者であるアラン・チューリング氏が発案した「機械が人間と同じように振る舞えるかどうか」をテストする方法です。人間の審査員が、人間1人とプログラムによるコンピュータ1台と隔てられた場所で対話し、人間と区別ができなければ機械が人間的であると判断するものです。
しかし、このテストには哲学者であるジョン・サール氏から「中国語の部屋」という反論が示されています。
「中国語の部屋」を簡単に説明します。ある部屋の中に、英語は理解できても中国語が理解できない人がいたとします。ただし、英語で書かれた完璧な中国語マニュアルを持っています。外から中国語で質問したとき、マニュアル通りに正しい回答をすると、外部からは、まるで中国人が中にいるようにみえます。しかし、中国語をまったく理解していません。決められた通りに回答したことを、知能があるといってよいのかどうか疑問です。
実際にAlexaやSiriのような音声対話型の人工知能は、まるで人間と会話をしているようにみえますが、アルゴリズムによって回答を生成して読み上げているだけです。厳密にいえば、中国語の部屋と同じ状態といえます。
このような疑問がある中で、東京大学の松尾豊氏は「きづくことのできる」コンピュータを人工知能として定義しています。「データの中から特徴量を生成し現象をモデル化することのできる」能力を挙げ、これはディープラーニング(深層学習)ベースによる現在の人工知能を正確に定義しているといえるでしょう。
人工知能の分類と種類
実現していない領域を含めて、人工知能には2つの分類と各2項目による合計4つのパターンがあります。
- 特化型人工知能と汎用型人工知能
- 強いAIと弱いAI
特化型人工知能と汎用型人工知能は、処理できる領域による分類です。強いAIと弱いAIは「中国語の部屋」を考案したジョン・サール氏の分類で、人工知能が人間のような意識や知性を持つかどうかという視点から論じています。
それぞれ解説するとともに、人工知能の種類を挙げます。
分類1:特化型人工知能の概要と種類
特化型人工知能(Narrow AI)は、特定の領域にフレームを定めて、その領域内でパフォーマンスを発揮する人工知能です。囲碁で世界最強の柯潔(カ・ケツ)氏を破ったAlfaGoは、囲碁の特化型人工知能といえます。
このような特化型人工知能の種類には以下のようなものがあります・
- 囲碁、将棋、チェスなどの対戦、ゲームのキャラクター
- 画像認識、顔認証、指紋・虹彩認証、AI OCR
- 自動運転(ロボットカー、ドローン、空を飛ぶクルマ、船舶、宇宙船など)
- 株価、販売、天気などの予測
- 言語認識、自動翻訳、音声入力、音声読み上げ
- 医療(ガンなど疾病の早期発見、遠隔治療など)
- RPA(Robotic Process Automation)
- 工場の異常検知、サイバー攻撃の検知、予知保全
分類2:汎用型人工知能の概要と種類
人間を模倣して知的生命体のように認識と判断ができる人工知能を、汎用型人工知能(Artificial General Intelligence:AGI)と呼びます。SF映画に登場するようなアンドロイドやロボットは、汎用型人工知能を搭載したマシンといえるでしょう。
現状では、汎用型人工知能の実現は困難な状況にあります。その理由には、有限時間内に停止するかどうかを判別する万能プログラムはない「停止性問題(Halting Problem)」、洞窟内の爆弾を処理する例から矛盾を解決するための「フレーム問題(Frame Problem)」、記号と意味を結び付けられない「シンボルグランディング問題(Symbol Grounding Problem)」などがあります。
分類3:強いAI
特化型人工知能と汎用型人工知能は実用レベルの区分であったことに対して、強いAIと弱いAIという分類は広義でとらえています。
まず強いAIですが、知識を持つとともに感情も持ち、プログラムのフレームを超えて自律的に判断できるような知能です。SFや想像の世界ですが、アンドロイドやロボットに搭載されている人工知能をはじめ、次のような例が考えられます。
- 鉄腕アトム
- エヴァ(映画『エクス・マキナ』)
- サマンサ(映画『her/世界でひとつの彼女』)
上記のうち、サマンサはOS(オペレーションシステム)型の人工知能であり、物理的な身体を持ちません。しかし、感情に近い機能を持っています。
分類3:弱いAI
弱いAIは、自律的な感情はもちろん意識を持ちません。したがって入力されたデータをアルゴリズムの計算処理によって出力します。特化型人工知能とほぼ同じ意味であり、現在の人工知能は弱いAIです。
人工知能の歴史による種類
人工知能には、これまで3つのブームがありました。
- 第1次人工知能ブーム:1950年代後半から1960年代
- 第2次人工知能ブーム:1980年代
- 第3次人工知能ブーム:2000年頃
このような歴史から生まれた人工知能の種類を挙げます。
エキスパートシステム
第二次AIブーム(1980年代)に登場した人工知能で、知識表現を重視しました。法律の判例や病気の診断など、ナレッジベースを用いて実務的な支援を行います。
事例ベース推論(Case-Based Reasoning:CBR)
過去の類似した成功事例や失敗事例を検索して、事例を再利用することにより問題の解き方をマッピングし、修正など改良を加えた上で解法を記憶させる推論の方法です。
ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)
因果関係を確率により視覚的に記述します。原因と結果を複数組み合わせて、相互の影響により発生する現象を確率とネットワーク図で記載する手法です。1980年頃から人工知能のアルゴリズムとして研究されてきました。
ディープラーニング
第3次人工知能ブームを引き起こすきっかけになった人工知能の技術で、現在多くの人工知能に採用されています。人間の脳のシナプスを模倣したニューロネットワークによる機械学習で、学習する階層を深めることによって精度を高めます。
まとめ
現実的なレベルでは特化型人工知能の実用化が進展していますが、汎用型人工知能の実現は人類の夢といっても過言ではありません。人工知能によって仕事が奪われる、ディストピアが到来するといった警鐘を鳴らす識者もいますが、人工知能のフレームを定義することが、人間と人工知能の共存に必要なことかもしれません。