多くの企業がERPのクラウド移行に踏み切っています。しかし、クラウド移行のメリットや移行事例の情報が少なく、クラウド移行の意思決定がしづらいのではないでしょうか。そこで本記事では、SAPシステムをAzureに移行すべき6つのポイントやSAP on Azureの移行事例について紹介していきます。
SAPシステムをAzureに移行すべきポイント
SAPシステムをオンプレミスからクラウドに移行することによる効果は、企業ごとに変わってきます。中には、オンプレミスのまま運用し続ける方がメリットは大きいケースもあります。
しかしながら、クラウド化することによりさまざまなベネフィットを享受できるようになることも事実です。
ここでは、SAPシステムをAzure上に移行した際のベネフィットを、Microsoftが提唱する6つのポイントに分けて詳しく紹介します。
1.SAP向けに最適化されたクラウドプラットフォーム
1つ目のベネフィットは、AzureのクラウドプラットフォームがSAP向けに最適化されており、SAP からの認定を受けている点です。
Azureを利用すれば、最大12TBのスケーラブルなHANA認定SAP仮想マシンを利用でき、オンプレミスで大きな負荷がかかっていたSAPの運用効率を高め、システム要件に応じてリソースを柔軟に変更できるようになります。
また、SAPと親和性の高いプラットフォームを利用することで、より問題の発生しにくい環境を構築できるというメリットもあります。
2.高度な分析による新しい分析情報の提供
2つ目のベネフィットは、SAP上のデータと分析ツールをAzure上で連携させて、簡単に高度な分析が行えるようになるということです。
Azureでは、AI・機械学習などをはじめ、さまざまな分析サービスが提供されています。
SAPで日々蓄積されるデータをこれらのデータサービスと連携し、ビジネスの成果を改善するための分析情報としてリアルタイムで活用することができます。
3.セキュリティとコンプライアンスの確立
3つ目のベネフィットは、Azureのクラウドプラットフォームを利用することで、Azureが提供する高いセキュリティサービスとコンプライアンスポートフォリオの恩恵を受けられるということです。
Microsoftでは3,500人のサイバーセキュリティのエキスパートが在籍しており、堅牢なセキュリティを実現しています。
クラウド化によりこれまでオンプレミスではIT部門の負担になっていたセキュリティ、コンプライアンスの確立・強化を簡単に行うことができるでしょう。
また万が一に備え、バックアップや災害復旧への対策も、Azureのサービスで組み込むことができるなど、緊急時の対策まで簡便化可能です。
4.コスト削減
4つ目のベネフィットは、Azureのクラウドプラットフォームを利用することでコスト削減を実現できる可能性があるということです。
Azureのクラウドサービスを利用すれば、下記の4点からコスト削減につなげることが可能です。
必要最低限のフレキシブルなインフラ調達
オンプレミスでSAPのインフラを構築するには多大なコストがかかるため、容易にリソースを増減させることができず、必要なリソースが変化するたびにコストがかかってしまうといったリスクがあります。
しかしクラウドプラットフォームなら、必要なインフラをすぐ調達でき、インスタンスも数分で実現され、フレキシブルな対応へつながります。そのため、常に最適化したコストで抑えられるというメリットがあります。
リザーブドインスタンスの採用
Azureでは、1年または3年の長期で契約することで、割引料金でサービスを利用することができるようになります。SAPは基本的に長期に渡って利用するので、大きなリスクもなく、割引を利用することでコストが大幅に削減できる可能性があります。
保守管理費用の低減
Azureを利用する場合、Microsoftが運用する仮想インフラを利用することになるため、これらの保守管理はすべてMicrosoftが行うことになります。
そのため、オンプレミスで保守管理に必要だった人件費を削減できます。
セキュリティ対策の簡便化
Azureのセキュリティサービス、コンプライアンスポートフォリオを利用することで、自社でのセキュリティ対応が不要になり、多大なコストや手間を削減することができます。
5.Microsoftサービスを使用したイノベーション創出
5つ目のベネフィットは、Azure上のさまざまなMicrosoftサービスとSAPを連携させることで、業務における新しいイノベーションを生み出せるということです。
まず、Azure上でSAPとMicrosoft OfficeやTeamsをデータ連携し、ユーザーエクスペリエンスを向上させることで業務の効率化を実現できます。
また、GitHubやAzure Kubernetes Service (AKS)などのサービスを利用すれば、SAP機能の拡張を行うことも可能です。
6.企業としての信頼性確保
6つ目のベネフィットは、Azureは実績が十分にあり多くのクライアントから支持されているサービスだということです。
2020年にIDCが行った調査では以下のような回答があり、Azureに対する満足度が高いことが示されています。
- 94%の顧客がMicrosoft Azureのコンプライアンス対応に満足と回答
- 86%の顧客がMicrosoft Azureが競争力のリスクにならないと回答
- 84%の顧客がMicrosoftが顧客データのマイニングを行わないことに満足と回答
- 82%の顧客がMicrosoft Azureのセキュリティとデータプライバシーに非常に満足していると回答
MicrosoftとSAPとが25年間に渡りパートナーシップを組んでいるという実績もあり、企業としての実績と信頼性の高さは折り紙付きです。
コベルコシステム株式会社のSAP on Azureの移行事例
ここまで、SAPをAzureに移行することによる6つのメリットを紹介しました。次は、コベルコシステム株式会社がシステムインテグレーション企業としてSAPのAzure移行を行った実例を紹介します。
株式会社オーディオテクニカの事例
今回紹介するのは、コベルコシステム株式会社が株式会社オーディオテクニカより依頼を受け、AzureへのSAP導入を行った事例です。
株式会社オーディオテクニカは1962年に創業し、現在は世界中で音響機器のブランドとして支持されているブランドです。
株式会社オーディオテクニカには世界各地の拠点がそれぞれ独立独歩で事業を進めてきたという歴史があります。そのため拠点間の情報共有が満足に行えず、企業全体で見たときにさまざまな所で無駄が生じてしまうという問題が発生していました。
この問題を解決すべく、製造業へのSAP導入に強いコベルコシステム株式会社が依頼を受け、具体的な導入計画を策定していくこととなりました。そうした中で、自由なサイジングが可能なクラウドを採用することが決定し、BIなどで利用実績が豊富なAzureが選ばれました。
当時はSAPをAzureで利用する形態はSAP社の認定前で、国内での導入事例はない状態でしたが、コベルコシステムとMicrosoftとの連携により問題なく導入が完了。まずは第一段階として、国内4社2工場に対し、SAPが導入されました。
導入においては、貿易管理業務などSAPでは対応できない領域が発生した際に、Azureで新しいサーバーを建てることで簡単に別パッケージを導入するなど、Azureの柔軟性の高さがSAP導入の大きな手助けになったとのことです。
そして、SAP on Azureを導入したことによるメリットとして以下のような成果が上がりました。
- 月次決算に要する時間が7日間から2日間に短縮
- 月1回を基本としていた生産指示が頻繁に行えるように改善
- 情報を統合することで必要なサーバーや拠点ごとのソフトウェアの多重投資が減り、ランニングコストが半減
また、これからの展望としてSAPの生産指示短縮化と海外の情報を取り込むグローバルPSIを連携することで、生産拠点における生産リードタイムを短縮することも期待されているとのことです。
まとめ
今回は、SAPをAzureに移行するべき理由と、実際に導入した事例についてお伝えしました。
Azureに移行することによるメリットとしては、以下の6つのポイントが挙げられます。
- SAP向けに最適化されたクラウドプラットフォームであること
- 高度な分析により新しい分析情報を提供できること
- セキュリティとコンプライアンスが確立していること
- コスト削減できる可能性があること
- Microsoftサービスを使用したイノベーションが創出できること
- 企業としての信頼性があること
現在オンプレミスでの運用を行っていて、システムの効率化やデータ活用、セキュリティやコンプライアンスなどでの課題を感じているのであれば、SAP on Azureを導入し、上記のメリットを活用して事業の効率化や新しいイノベーションの創出に役立てることをおすすめします。