人工知能について、皆さんはどれくらいご存知でしょうか。「自律的に考えるコンピューター」という認識は広がりつつありますが、実際に人工知能をビジネスに活用するとどのようなメリットがあるのかを詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。中には、「人工知能が発展することで職を失う人が多くなる」と捉えている方もいます。何が真実で、何が間違っているのか?本稿では、人工知能を活用するメリットをご紹介すると共に、人工知能の気になる豆知識についてご紹介します。
そもそも人工知能とは何か?
人工知能と聞くと、鉄腕アトムやターミネーターなど高度な自律型ロボットをイメージする方が多いです。人とコミュニケーションを取り、自ら考え、言動に移す。こうした人工知能のことを「強い人工知能」と呼びます。
そして今、私たちの周りに存在する大半の人工知能は、強い人工知能には分類されず「弱い人工知能」と呼ばれています。とはいっても力が弱かったり性能が悪かったりするのではなく、特定の情報処理に特化した人工知能を指して言います。現在、世界には人工知能を使ったさまざまなサービスが展開されており、それらのサービスのほとんどすべてが特定の情報処理に特化した人工知能を使っています。
自律的に物事を考えるというよりも、予め定義されたプログラムに従って情報を返したり、過去の情報から学んだものの中から正解を導き出したり、予測分析を行うのが人工知能の主な役割になります。
人工知能のメリット
人工知能を活用することで、どのようなメリットが得られるのか?現在、人工知能活用は急速に拡大しており、想像以上のメリットが得られます。
それでは、人工知能のメリットを1つ1つ確認していきましょう。
1.経営状況の可視化
企業で日々遂行される業務から生まれる情報には、経営のすべてが詰まっています。ところが、それらの情報はシステムごとに分散しているため、正確な経営状況を把握するのが困難になっています。また、情報を集約しただけではなく、情報の加工や分析まで行わなくてはいけないため、そこにも課題が生じます。
これを解決するのが人工知能です。各システムから集約した情報を自動的に加工・分析することによって、経営者が知りたい情報を見やすい形でレポートとしてまとめてくれます。さらに、対話型の人工知能ならば都度知りたい情報を変化させながら、経営情報をリアルタイムに可視化できます。
情報をもとにした経営戦略を実現するためには、欠かせないものと言えます。
2.労働不足問題の解消
少子高齢化が進むここ日本では、今後労働力人口が減少していくことが予測されています。みずほ総合研究所の調査によると、約55年後には現在の6割程度まで労働力人口が減ると見込んでいます。
実際に、内閣府が調査した情報によれば、人員が不足していると感じている企業は大企業・中小企業共に多く、人員が過剰していると考える企業の倍以上となっています。
そんな中、人工知能は「デジタルレイバー(仮想知的労働者)」と呼ばれ、新しい労働力として注目されています。たとえば簡単な処理を繰り返すような業務を人工知能に代替するなどして、労働不足問題に貢献しています。
この傾向は今後も拡大し、日本の深刻な労働不足問題を解消するカギとして注目されています。
3.労働生産性の向上
人工知能によるデジタルレイバーは、労働不足問題を解消すると同時に会社の労働生産性を向上するメリットもあります。たとえば、製造業では外観検査工程に画像認識に特化した人工知能を導入するケースが増えています。
外観検査は製品品質を保証する上で欠かせない工程であり、熟練の作業者による検査が要求されます。そのため、検査コストが想像以上に高く、かつ神経も消費するため作業者への負担も大きくなります。
この外見検査に人工知能を取り入れると、カメラで撮影した画像から、製品の意匠面における不良を効率よく検知できます。また、不良に該当する箇所をシステム画面上に映すなどして作業者の確認をサポートしてくれるので、大幅な労働生産性向上に貢献しています。
他にも人工知能による店舗無人化や、情報分析による効率的な配送ルートの提示など、いたるところで労働生産性を向上させる活躍を見せています。
4.顧客満足度の向上
顧客満足度は製品の品質、サービスの品質、対応の品質という3つの要素から成り立っています。そのうち、人工知能が大対応の品質を大幅に向上させられる可能性があります。
たとえば、JR東日本では当社のコールセンターに人工知能を導入し、対応の効率化を図っています。音声認識技術によって問い合わせ内容をテキスト化し、人工知能が過去の膨大な情報を分析しながら回答候補や関連情報をオペレーターに提示することで、応答時間を30%削減することに成功しているのです。
対応時間が短いほど会社に対する不満は少なくなり、ひいてはそれが顧客満足度向上に繋がります。また、人工知能を活用した製品の品質やサービスの品質が向上すれば、それに応じて更なる顧客満足度向上が期待できるでしょう。
5.需要の予測
ビジネスの基本は「市場の需要を予測して、それに応じた製品やサービスを提供する」ことです。しかし、この基本が難しいからこそ、多くの企業が悪戦苦闘しています。成功のためにまず必要なのは正確な需要予測です。
極端な話、「市場で何が売れてどれくらい売れるのか」を把握できれば、これほど簡単なビジネスはありません。もちろん、そうした情報を得ることは不可能ですが、人工知能によってそれに近しい情報を得ることはできます。
人工知能に過去から現在までの販売情報や顧客情報、さらに市場におけるシェア率やトレンドの傾向などあらゆる情報を読み込むことで、自動的に需要を予測するようなプログラムを組み込めば、正確な予測ができます。
今後、人工知能は経営戦略を立てる上での重要なパートナーとして企業と共存していくことになるでしょう。
6.新しいビジネスの創出
人工知能による新しいビジネスの創出は年々拡大しています。特に注目されているのが、製造業のサービタイゼーションです。今までモノとして製造・販売してきた製品を、サービスとして提供することを意味します。
たとえば産業機械にセンサーを取りつけて、そこから生み出される情報を人工知能が解析し、微調整を繰り返したり故障の予兆を察知したり、今までにないサービスを生み出しています。
英ロールスロイス社では、ジェットエンジンに取り付けたセンサーから情報を収集して、それを人工知能に解析させることで推進力を把握し、出力に応じた従量課金制のリールサービスを展開しています。
人工知能の未来はどうなる?
人工知能が発展すると、「雇用が無くなる」などの心配が生まれています。確かに、人工知能によって無くなる雇用もあります。しかし逆に、人工知能が生み出す新しい雇用もあるでしょう。そのため、人工知能によって雇用が奪われることを心配するよりも、人工知能が普及した世界でどのように立ち回ればよいのかを考えることが、建設的だと言えます。
また、「人工知能が感情を持って人間と敵対するのではないか?」といった不安も良く取りざたされています。しかし、現時点でそうした人工知能は開発されていません。また、感情というのは動物特有のものなので、人工知能にそれが備わるのも考え難いことです。
ただし、人工知能を悪用した詐欺が横行する、人工知能を対象にしたウイルスが開発されて混乱を招く、などのリスクはかなり現実的なものなので、警戒が必要です。
皆さんもこの機会に、人工知能に対する理解をさらに深めてはいかがでしょうか?