大量のデータを効率よく管理していくには、データベースの活用が不可欠です。近年では、クラウド促進の流れもあり、これまでのオンプレミスで管理されているデータベースからクラウド型のデータベースへ移行を進める企業が増えてきました。
本記事では、クラウド型データベースの基礎知識や導入の流れ、メリットや注意点について詳しく解説するとともに、おすすめのサービス5選を紹介します。
クラウド型データベースとは?
クラウド型データベースとは、オンライン上でデータベースを利用できるサービスのことです。初期費用を抑えてスピーディーにデータベースの運用を開始できるだけでなく、インターネット環境とデバイスさえあればどこからでもアクセスできるなど、効率性の高さからも注目が集まっています。
これまでは、社内に専用のサーバーを設置してデータベースを構築し、ネットワークに接続してデータベースを利用するケースが大半でした。このようなオンプレミス型での運用形態は、自社に適したシステムを構築できる上、自由にカスタマイズできる点が大きなメリットです。
一方で、初期費用が高額になりやすく、専門的な知識を有する人材の確保やメンテナンス費用、トラブル発生時に自社で対応しなければならないなど、企業のリソースによっては導入のハードルが高いといったデメリットもありました。運用の自立しているクラウドサービスであれば、エンジニアの技術やスキルに頼らず、現場ユーザーが必要なときにデータベースを活用できるようになります。
クラウド型データベース導入のメリット
2023年に総務省が公表した「企業におけるクラウドサービスの利用動向」では、2022年時点で、一部でもクラウドサービスを導入していると回答した企業の割合が、72.2%です。また、この中でファイル保管・データ共有にクラウド活用している企業の割合は、64.1%になっています。
数多くのメリットが存在するため、多くの企業がクラウドサービスを採用しています。ここでは、データベースをクラウドで運用するメリットを紹介します。
導入コストの削減
クラウドでデータベースを運用すると、社内にサーバーを設置するための専用スペースを確保する必要がありません。また、システムの構築から運用まで自社で行うオンプレミスと比べ、人的コストの削減にもつながります。さらに、従量課金制を採用しているサービスであれば、ランニングコストの最適化にも期待できるでしょう。
ただし、データベースをクラウドへ移行する際に、単なる置き換え先といった考え方では、コスト削減にうまく結びつきません。中には、クラウドへの移行がライセンス費用の増額につながるケースもあるため、クラウドに適したシステムへと切り替えていく必要もあるでしょう。将来的にクラウドを積極的に活用していくのであれば、既存のITインフラを見直すことが重要です。
利用開始までの時間が短い
クラウドサービスの特徴は、必要な機能が揃ったシステムを購入するため、導入から運用までの時間を大幅に短縮できるというメリットがあります。オンプレミスの場合、運用開始までに数カ月かかるケースも珍しくないでしょう。市場変化の加速する現代において、長期間を要する大規模なプロジェクトへの取り組みは、それなりのリスクを伴うものです。
そのため最近では、クラウドサービスを導入してスピード感のある対応を目指す企業が増えています。ITリソースを確保するためのコストを抑え、開発の手間がかからないクラウドサービスの導入は、このような観点からも非常に有用性が高いといえるでしょう。
セキュリティ管理がしやすい
クラウドでは、サービスの提供元がセキュリティの脆弱性を診断した上で、サイバー攻撃やマルウェアに対して十分な対策を講じてくれます。オンプレミスで必要としていた管理作業の手間が省ければ、貴重なリソースをコア業務へ充てることも可能です。
クラウド型データベースの導入を検討していても、セキュリティの面からなかなか移行に踏み出せないという企業も多いのではないでしょうか。近年では、クラウドの拡大とともに、国際標準であるISO規格のセキュリティ認証を受けたサービスも多くなっています。そのため、クラウドへの移行がセキュリティレベルの向上につながるケースも少なくありません。
どこからでもアクセスできる
インターネット環境とデバイスさえあれば、ユーザーがどこからでも情報にアクセスできる利便性の高さもクラウドのメリットです。近年では、働き方改革や新型コロナウイルスの影響もあり、テレワークを導入する企業は多くなりました。働き方が多様化する中で、従来のオンプレミスの運用では従業員が必要なデータにアクセスできず、作業効率が上がらないという課題がありました。
このような観点からも、クラウド型データベースの活用は、ニューノーマル時代の働き方に大きく貢献するといえるでしょう。自宅や出先で業務を遂行する従業員が、スマートフォンやタブレット端末を使って顧客情報をスピーディーに確認できれば、業務効率化による生産性の向上が実現します。
クラウドデータベースへの移行が適さない環境とは
クラウドデータベースは多くの利点があるものの、インターネット接続が不安定、厳しいデータ保護規制、既存システムとの互換性問題、高コストなどの要因により、必ずしも全ての企業に適しているわけではありません。
安定したインターネット接続が確保できない場合
クラウドデータベースはインターネット経由でアクセスするため、常に安定した接続が必要です。接続が不安定な環境では、データの遅延やアクセス不可といった問題が発生し、業務に重大な影響を与える可能性があります。
インフラが整っていない環境では、頻繁に接続が切れることでデータ処理が中断し、データの整合性が損なわれる可能性もあります。
このような状況下では、オンプレミスの利用を検討すべきです。クラウドの利便性よりも、通信の安定性を優先することが求められます。
厳格なデータ保護が必要な場合
クラウド環境ではデータが外部のサーバーに保存されるため、セキュリティとプライバシー保護が大きな課題となります。医療や金融、政府機関などの業界では、法的な規制に基づき、データの保管場所や管理方法が厳しく定められており、これを満たすことが必須です。しかし、クラウド環境ではこれを満たせないリスクがあります。
クラウドサービスを利用することで、データが複数の地域に分散されることがあり、これが法的リスクを増大させる場合もあります。そのため、オンプレミスでの管理を維持するか、信頼性の高いクラウドセキュリティ対策を施したサービスを慎重に選定することが重要です。
既存のシステムとの互換性が低い場合
クラウドデータベースは最新技術を前提に設計されているため、既存システムとの互換性が低く移行が困難となる場合があります。古いシステムや特定の業務アプリケーションを使用している企業にとっては、データの移行やシステム統合において、技術的な課題や多大なコストが発生するリスクとなるでしょう。
また、システムの動作不良や不整合が発生する可能性に加えて、移行の際に既存システムの再設計が必要となるケースもあり、このプロセスは時間と費用を要するため、企業にとって大きな負担となる可能性があります。
そのため、既存システムとの互換性を確認し、リスクを最小限に抑えるための対策を講じることが重要です。
コスト面での負担が大きい場合
クラウドデータベースの料金体系は、基本的にデータ量や利用時間に応じた従量課金制です。用途によっては、オンプレミス型のデータベースと比べてコストが高くなることもあります。また、データの保存容量やトラフィック量が多いほど、追加の費用がかさむため、事前に正確なコスト見積もりが困難な場合もあります。
さらに、クラウドサービスを利用することで、必要なカスタマイズや追加機能に対する費用が発生することも考慮すべきです。
クラウド型データベースの比較ポイント
クラウド型データベースを選ぶ際には、以下の複数の要素を慎重に比較することが重要です。
- 保存可能なデータの種類
- スマートフォンでのアクセス対応
- データ分析とレポート機能の有無
- 利用料金・無料トライアルの有無
- 他社サービスとの連携
それぞれの要素について詳しく解説します。
保存可能なデータの種類
クラウド型データベースを選定する際には、対応するデータの種類を確認することが不可欠です。非構造化データ(画像、音声、動画、テキストなど)や半構造化データ(JSON、XMLなど)も取り扱えるかどうかを確認します。
例えば、業務において大量の画像データやログデータを扱う場合、それらのデータを効率的に保存・管理できるかが重要な選択基準となります。
また、データの種類に応じた検索や分析機能が提供されているかも、業務効率に大きく影響するため、事前に必要なデータタイプとそれに対応する機能を検討することが重要です。
スマートフォンでのアクセス対応
現代のビジネス環境では、スマートフォンやタブレットなどの端末からクラウドデータベースにアクセスできることが重要です。外出先でもデータを確認・更新できる利便性は、業務の効率化につながります。
そのため、スマートフォンに最適化されたインターフェースや、専用アプリの提供状況、モバイル環境での操作性などを検討する必要があります。特に、オフラインでも一部機能が利用できるか、スマートフォンからのアクセス時にセキュリティが適切に確保されているかといった点も重要です。
これにより、リモートワークや現場での業務がスムーズに進行し、生産性の向上が期待できます。
データ分析とレポート機能の有無
クラウド型データベースを選定する際に、データ分析やレポート機能の有無は非常に重要なポイントです。多くのクラウド型データベースは、データの可視化や統計的分析をサポートする機能を提供していますが、その内容は提供元やサービスによって異なります。
カスタマイズ可能なダッシュボードや、複雑なクエリを簡単に実行できるインターフェースなどの機能は、日常業務におけるデータ活用の効率性を大きく左右します。また、分析結果をレポートとして出力し、即座に情報共有できる機能があれば業務効率の向上が期待できます。
利用料金・無料トライアルの有無
クラウド型データベースの導入コストを抑えるために、利用料金の体系や無料トライアルの有無は重要な比較ポイントとなります。
多くのクラウドサービスは従量課金制や月額料金を採用しており、使用するデータ量や機能によって費用が変動します。導入前に無料トライアルを利用することで、サービスの適性を確認し、長期的な費用対効果を見極めることが可能です。
費用を最適化しつつ、必要な機能を十分に備えたサービスを選ぶために、料金体系の詳細と無料トライアル期間を確認し、最適な選択を行うことが求められます。
他社サービスとの連携
クラウド型データベースを選ぶ際には、他のビジネスツールやシステムとの連携性を考慮することが重要です。CRMシステムやERPシステムなど、さまざまなビジネスツールとの連携により、データのやり取りがスムーズになり、業務効率を大幅にアップできます。
データのインポートやエクスポートが容易であること、APIを通じて他のサービスと連携できることなど、互換性や拡張性が高いクラウドデータベースを選定することが重要です。APIの充実度や、コネクタの提供状況などを比較検討することで、シームレスなデータ連携を実現できます。
おすすめのクラウド型データベース5選
クラウド型データベースを導入する際は、目的がより明確であるほど成功に結びつきやすくなります。誰がどのタイミングでデータを入力するか、集めたデータをどう活用するか、データの発生頻度と保存するデータの量なども具体的にイメージした上で、自社に適したサービスを比較検討するようにしましょう。
ここでは、おすすめのクラウド型データベース5つをピックアップして、それぞれの特徴を解説していきます。
Microsoft Azure SQL Database
Microsoft Azure SQL Databaseは、Microsoft社が提供するフルマネージドのクラウド型データベースサービスです。自動バックアップ機能を備えており、データの保護が強化されているため、自社でのバックアップ作業が不要となり、データの安全性を高めながら運用コストを削減することが可能です。
Microsoft製品との連携が可能で、既存のMicrosoft環境との統合がスムーズに行えるため、シームレスな業務運用が実現します。さらに、自動更新プログラムにより、システムを常に最新の状態で維持でき、セキュリティリスクを最小限に抑えられます。
CPUやメモリなどのリソースを需要に応じてスケールアップ・スケールダウンができるため、効率的なコスト管理が可能です。また、3つのデプロイオプションが提供されており、ニーズに合わせた管理方法を選択できます。
テンプレートを活用したノーコードでのデータベース作成が可能であり、操作性の高さも特徴です。信頼性、柔軟性、そして操作性の高さから、魅力的なサービスといえるでしょう。
Amazon RDS
Amazon RDSは、AWS(アマゾンウェブサービス)が提供するクラウド型データベースです。ソフトウェアの自動バージョンアップ・自動バックアップ機能の搭載に加え、暗号化通信やアクセス制限などセキュリティ対策も万全です。既存のデータベースの移行作業も容易に実行できます。
従量課金制と定額制の料金体系が用意されているため、短期間の利用や状況に応じて流動的に利用したい企業は従量課金制、ある程度長期的な利用を検討しているのであれば定額制と、目的や用途に応じて料金プランを選択でき、運用コストの最適化が見込めます。
Google Cloud SQL
Googleが提供するGoogle Cloud SQLは、Google Cloud Platform上で提供されるフルマネージドなリレーショナルデータベースサービスです。実用性の高いデータベース管理システムであるMySQL、事前に定義したデータの集合体を管理するPostgreSQL、Windows OSとの相性がよく導入事例の多いデータベース管理システムのSQL Server向けにリリースされています。
フルマネージドサービスで、データのバックアップやシステムのメンテナンス、モニタリングなどのオペレーションはすべて一任できるため、ユーザーはデータベースを用いた業務の遂行に注力できます。他のGoogleサービスとシームレスに連携できるのも特徴で、BigQueryやGKEと接続して利用することも可能です。
楽々Webデータベース
楽々Webデータベースは、住友電工情報システムがリリースしている業務効率化ツールです。Excel業務を簡単にWeb化できるのが大きな特徴であり、Excelから取り込んだデータをデータベース化したり、チーム全員で情報を共有したりすることも可能です。帳票出力やフォーム制御、クロス集計、グラフ化といった多彩な機能を実装しています。
アンケートの集計や課題管理、在庫管理にExcelをよく活用する企業におすすめのサービスです。なお、楽々Webデータベースでは、データの入力作業は従来通りExcelで行います。新たなツールやサービスを導入すると、現場のユーザーが慣れるのに苦労しがちですが、そのような心配は必要ありません。
kintone
サイボウズ株式会社が提供する「kintone」は、ノーコードでデータベースが作成でき、社内に点在するさまざまな情報の集約や可視化に有用なサービスです。SNS感覚で利用できるため、コミュニケーションの活性化にも貢献してくれるでしょう。
拡張性にも優れており、200種類以上のサービスと連携して利用することも可能です。豊富なプラグインも用意されており、発想次第でデータベース以外の活用法も見出せるかもしれません。約30,000社以上の導入実績があるため、安心して利用できるのも魅力的なサービスです。
クラウドデータベースサービス導入の流れ
クラウドデータベースの導入には下記のステップが必要です。
- サービスの選定
- データ移行計画の策定
- 実施
- セキュリティ情報の設定
- データ整合性の確認
それぞれのステップについてここから詳しく解説します。
導入するクラウドデータベースサービスを選定
クラウドデータベース導入の第1歩は、適切なサービスの選定です。企業の業務ニーズに合ったデータベースを見極めるため、保存データの種類、容量、アクセス頻度、セキュリティ要件、他システムとの連携、コストなどを総合的に評価します。
また、不具合やトラブル時の対応として、提供元の信頼性やサポート体制も重要な選定基準です。長期的な運用を視野に入れ、機能や価格のバランスが取れたサービスを選ぶことが求められます。
データ移行計画を立てる
クラウドデータベースへの移行を成功させるには、綿密なデータ移行計画が不可欠です。オンプレミスに残すべきデータがあるか、クラウドに移行するものは何か検討し、個人情報などクラウド移行しないものを決める必要があります。
移行対象となるデータの範囲や優先順位、移行作業のスケジュール、ダウンタイムの最小化、リスク管理を含む具体的な計画を策定します。また、移行前のバックアップ作成やテスト環境での移行シミュレーションも計画に含め、問題発生時の対応策を準備します。
サービス導入・データ移行
選定したクラウドデータベースサービスの導入後に行うことが、計画に従ってデータ移行の実施です。データのエクスポート・インポート作業を慎重に進め、移行後のデータが正確に配置されているかを確認します。
夜間や休日作業が難しい場合は、特にダウンタイムを最小限に抑えつつ、業務への影響を最小化することが求められます。移行が完了したら、システム全体の動作確認やパフォーマンスの検証も行い、必要に応じて最適化を図りましょう。
権限やセキュリティ情報を移行
データ移行が完了した後、ユーザー権限やセキュリティ情報の移行を行います。クラウド環境でも既存のセキュリティポリシーを維持し、アクセス権限や暗号化設定を適切に適用することが重要です。
また、セキュリティ監査ログの設定や、定期的なセキュリティチェックのスケジュールを組み込み、セキュリティレベルの維持と強化を図ります。これにより、データの安全性とシステムの信頼性を確保します。
データの整合性を確認
データ移行後、移行前と後でデータの整合性を確認する作業が必要です。データの欠損や不整合がないか、システムの動作に問題がないかを徹底的にチェックします。自動化ツールを活用して迅速かつ効率的に確認を行いましょう。もし不具合が発見された場合は早急な対応が必要です。
また、ユーザーアクセス権限の確認も行い、全体の運用が正常に機能することを確認します。このプロセスにより、データの信頼性を確保し、クラウド環境での業務運用がスムーズに行われることを保証します。
クラウド型データベースを利用する際の注意点
クラウド型データベースの利用には、カスタマイズの制約や複数サービスの比較検討が重要です。カスタマイズや自社システムとの連携などに柔軟性を欠く場合があるため、選定には慎重さが求められます。
柔軟なカスタマイズができない
クラウド型データベースは、多くの場合、提供される標準機能に依存するため、オンプレミス環境と比べて柔軟なカスタマイズが難しい場合があります。企業固有のニーズに対応するための機能が不足することがあり、特に複雑な業務要件がある場合には、その制約がビジネスに影響を与える可能性があります。
事前に必要な機能を確認し、導入を慎重に検討することが重要です。さらに、将来的なニーズの変化にも対応できるかを評価しましょう。
複数サービスで検討する
クラウド型データベースは、AWSやAzureなど、多数のサービスが存在します。導入前に、各サービスの料金体系、性能、セキュリティ対策、そして自社のシステムとの連携性を比較検討することが重要です。
オンプレミスと比較して初期費用は抑えられる場合が多いですが、利用状況によっては、長期的なコストが上回る可能性もあります。無料トライアルやデモを利用し、実際に使用感を確かめることで、コストパフォーマンスを評価しましょう。
まとめ
クラウド型データベースは、コストの削減やセキュリティ面の向上、管理作業の効率化など、さまざまなメリットをもたらしてくれます。導入に当たっては、既存システムとの互換性確認などの注意点を抑えた上で入念な計画が必須となります。
すでにMicrosoft製品を利用している企業であれば、システムの構築からバックアップ作業の自動化が実現可能な、フルマネージドサービスであるMicrosoft Azure SQL Databaseの導入がおすすめです。